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高校でクラスメイトだった彼女が妊娠したらしいから産婦人科について行った話、もちろんヤった相手は俺じゃない  作者: 櫛名田慎吾
② 先輩からもらったコンドームのせいで彼女と後味の悪いことになったけれど、やっぱりさっさと一人で使っておけば良かったと思った話。
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第29話   〃 違うってセンパイ!

◇  ◇  ◇


「俺ビックリしたわ、あの二人が付き合ってたなんて知らんかった。小夜ちゃんは、知ってたん?」


 注文を聞いた店員さんが去ったすこしあと、僕は村澤さんと川城の話から始めた。小夜ちゃんは、小さく「うん」と頷いて水に口をつける。


 予想通り店内は半分くらいの客入りで、適度に静かで、適度に騒がしかった。どこの誰が何を喋っているのかが分からないほどの雑音は、僕と小夜ちゃんが話をするにはうってつけに思えた。


「いつからなん? あの二人」


「えっと、夏休みから」


「そっか、じゃあプチ同窓会したとか、文芸部の後輩に会ったとか言ってたときか……」


 僕は夏休み明けの川城の電話を振り返り、そういえばあの時『紹介したいヤツがいる』と言っていたことを思い出した。


「ああ、その時に村澤さんに会いに行ったんか。それで告白って、スゴイわ川城。ハハハ」


 軽く僕が笑うと、小夜ちゃんが困惑した顔になって口ごもったように訂正を入れる。


「センパイ、それ、ちょっと違うんや。川城センパイが会いに来たんやなくて、美紀ちゃんが川城センパイを呼んだ感じで」


「え、そうなん? じゃあ村澤さんがわざわざ川城を呼び出したん? なんで?」


 僕が尋ねると、小夜ちゃんは目を伏せて「私のせいで……」と言う。サッパリ意味のわからない僕が首を傾げていると、小夜ちゃんは大きく深呼吸してから口を開いた。


「わ、私とセンパイがうまいこといってない、って美紀ちゃんは薄々感じ取ってて、それで、お盆休みにも私がセンパイと会わへん、って美紀ちゃんが知ったら……」


「村澤さんが、知ったら?」


「『そんなん、めっちゃ深刻やん』っていって、勝手に川城センパイを呼び出した……んや」


 僕と小夜ちゃんの危機を感じ取って、村澤さんが川城を呼び出したという。なんのために? と考えれば、その先の筋書きは僕にも読めた。川城の線から僕の動向を確かめようと思ったのだろう。


 ――で、あの電話か、と僕はようやく事態を飲み込んだ。つまり川城は村澤美紀探偵局の諜報員だったのだ。


 村澤さんは先輩の川城を諜報員として使い、そして川城はその諜報員特権で村澤さんに近づいた。どっちもどっちというか、狐と狸の化かし合いというか、あの二人らしいといえば実にあの二人らしい気もする。


「そっか、川城は俺の動向を探ってたんやな。それでアイツは何回も何回も『彼女ができたか?』って電話で聞いてきたんか……。俺、絶対にあれは川城の当てつけやと思ってたんやけど、そうやったんやな。フフフ」


 僕が可笑しくなって笑うと、小夜ちゃんも少しだけ笑みを見せた。ただすぐに思い詰めた表情に戻り、僕に頭を下げる。


「ごめんセンパイ。ホンマは私が直接電話したらよかったんやけど……。私、何回も電話する勇気がなくて、そしたら美紀ちゃんがあんな感じで痺れを切らして」


「いや、俺こそごめん。もう少し俺も小夜ちゃんの家に電話したらよかったんや。ちょっと、時間をあけても」


 僕がそう言うと、小夜ちゃんが少し驚いたように顔を上げた。


「やっぱりセンパイも……、ウチに電話してくれたん?」


「うん、した。二回電話した、三回目はできへんかった、怖くて。……あれ? 『センパイ()』って、やっぱり小夜ちゃんも俺のアパートに電話くれたん? いつ頃?」


 その質問をする僕の心臓がドキリと鳴った。それがあの事件の半月以上あとだとすると、僕はやっぱり小夜ちゃんの電話を部屋を空にして敢えて無視したことになったのだ。


「えっと、あの次の日と、それから一週間のあいだに二回くらい。あとは……、センパイ出てくれへんのかな、とか思ったりしだしたら怖くなって」


「もう次の日に? それから一週間以内にも……」


 それは僕が小夜ちゃんからの電話を待っていた間だった。つまりは完全に行き違いということだった。僕は小夜ちゃんの電話を無視した訳ではなかったことに安堵しながらも、どうしてずっと部屋にいなかったのかと今さら悔やんだ。


 そしてそのうえ小夜ちゃんの次の言葉だ。


――『センパイ出てくれへんのかな、とか思ったりしだしたら怖くなって』


 小夜ちゃんも、僕と一緒だった。繋がらない電話に怖くなったのだ。それが分かった僕は、自分の不甲斐なさに涙が出そうだった。


「ごめんな、小夜ちゃん。俺が年上やのに、もっと勇気を出してたら……。いや、そんなん違うな、あの日に、俺があんなことしたんが悪いんやもんな。あんなん小夜ちゃんが嫌がるん決まってるし、謝って簡単に許してくれるんやったら――、」


 警察いらんし、と続けようとした僕の言葉を小夜ちゃんは遮った。


「違うってセンパイ!」


 まっすぐに僕を見る小夜ちゃんの目は、真剣だった。


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