第28話 〃 二人で話したらええやん
「とにかく尾崎センパイと小夜香、今日はケリをつけてもらわんと困るんや! 今年のことは今年の内に、っていうヤツ!」
村澤さんがちょっと怖い顔でそう言った。
「ほんまに、年が明けたら入試センター試験すぐやし、受験本番まで時間もないいうのに」
ブツブツとそう続ける村澤節を聞きながら、ああこの感じは久しぶりだわ、と僕は自分のことなのに少々可笑しくなってしまった。
「なんやザッキー、なんで笑ってるん?」
バックミラーに映った僕の顔が笑ったように見えたのだろう、めざとく見つけた川城が余計な事を言う。本当にコイツは気づかなくてもいいことに気づくヤツだ。
「えっ、尾崎センパイ笑ってるん!? もうホンマに……。尾崎センパイは去年受験が終わってるけど、小夜香と私は今からなんやで!! 特に小夜香なんて数学苦手やのに、尾崎センパイの大学受けるためにずっと数学の補習受けてるんやから!」
「美紀ちゃん!!」
「なんで、ホンマのことやん? 小夜香ここ最近全然マンガも読んでないし、イラストも気分転換にちょっと描いてるだけやんか。小夜香はそこまでして尾崎センパイの大学に一緒に行きたいんやろ?」
またしても小夜ちゃんは村澤さんに言いくるめられていた。けれど僕はそんなことよりも、小夜ちゃんがまだ僕の大学を受ける気でいたことに驚きを隠せなかった。
「えっと……」
驚いた僕が小夜ちゃんに質問をしようとしたとき、川城の運転する車が減速し、そしてどこかに止まった。
「さあ着いたで、後ろの二人はここで降りてくれ。ここから先は、ザッキーと倉本ちゃんの二人で話したらええやん。俺らがおったら話されへんこともあるやろ」
川城がそういって車を止めたのは、このあたりでは数少ない若者向けの喫茶店だった。
「あんな尾崎センパイ、これだけは言うとくけど、小夜香がまだセンパイのこと忘れられへんのはホンマやから。それに小夜香のこと狙ってる男子は藤原君だけやないからな、これ以上ほったらかしにしてたら絶対取られるで。それから小夜香! ホンマに……これで仲直りせな、私、怒るからな」
怒るからな、という怖い言葉を使った村澤さんだったけれど、その口調は柔らかで、心から小夜ちゃんのことを心配している感じがした。
「さあ行ってこい二人とも。話が終わったら店の公衆電話から俺のポケベル鳴らしてくれ、迎えに来るから。ザッキーにはこのまえ教えたやろ、俺の番号。二人が話してるあいだ、俺らはドライブしながら愛を語ってるから」
「そんなん語るわけないやん! アホの川城センパイ!」
けたたましいというか、騒々しい二人は僕たちを車から降ろして去って行った。去り際に迷惑にもクラクションを二度ほど鳴らして。
△
ポツンと駐車場に残された僕が腕時計を見ると、時間は午後の二時前。中途半端な時間だからだろうか、駐車場には車が半分ほど埋まっているだけで、店の中が満員ということは無さそうだった。
空は曇天とまではいかないけれど曇っていて、気温はもちろん十度もない。駐車場の片隅には一週間ほど前に降った初雪が集められていて、その周辺のアスファルトに黒い水たまりができていた。
ガサガサっという服がこすれるような音がして振り返ると、小夜ちゃんが寒そうにコートの襟元とマフラーを直していた。膝丈まである紺のコートにチェック柄のマフラー、足下は温かそうなボアのついた可愛いブーツ。女子高生の定番ファッションともいえるこの服装は去年も見たけれど、目の前にいる小夜ちゃんは去年と違って少し大人っぽくなっていた。
車の中で見たとおりに髪も伸びていたし、もっとふっくらとしていたはずの頬は無駄なくスリムになっている。僕が、痩せたのかな、と思ったのは間違いで、小夜ちゃんがまた少し大人の女性に近づいていたのだった。
「ああ、もうホンマにしょうがないな、あの二人は。じゃあ、店に入ろうか」
僕が誘うと、小夜ちゃんはコクリと素直に頷いたのだった。




