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高校でクラスメイトだった彼女が妊娠したらしいから産婦人科について行った話、もちろんヤった相手は俺じゃない  作者: 櫛名田慎吾
② 先輩からもらったコンドームのせいで彼女と後味の悪いことになったけれど、やっぱりさっさと一人で使っておけば良かったと思った話。
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第27話   〃 なあセンパイ、そう思わへん?

「――で、尾崎ザッキーセンパイ。ホンマに小夜香のこと振ったん?」


 いつぞやの川城の電話を思い起こさせるような言葉を、サラッと村澤さんは口にした。さっきまで前席で川城と村澤さんがおしゃべりしていた内容なんて、まったくこの質問と関連していなくて、なにが「――で」なのかサッパリ意味が繋がらない。


 それに川城と電話をしていた時は、もちろん小夜ちゃんが目の前になんていなかった。ところが今日は隣に小夜ちゃんが座っている。そんな逃げ場のない狭い車内でいきなり核心に触れてくる村澤さんは、やはり恐ろしい女の子だと僕は思った。


「どうなん? 振ったん? マジで?」


 助手席から後ろを振り向いた村澤さんは、ニヤリと笑った。隣からは小夜ちゃんが息をのむ気配がビンビンと伝わってくる。僕は何も言わない訳にはいかなくなって、仕方なく口を開いた。


「いや。俺、振ったりとか、……してへんよ」


「ホンマに?」


 確かめるような表情で、村澤さんが僕の言葉に重ねてくる。


「うん。ホンマに」


 事実、僕が小夜ちゃんを振ったことはないし、どちらかというと振られた感じになったのは、僕の方じゃないかと自問をした。


「なんや、やっぱりそうなんや。よかったやん小夜香、振られてへんやん。私の言うことが当たってたやろ?」


 あまりにもアッサリとそんなことを言う村澤さんに対して、小夜ちゃんは小さく「うん……」と返事をした。けれどその返事はどちらかというと義理で返しただけで、本心から納得したようには僕には聞こえなかった。


「どうしたん小夜香、まだなんかあるん? あっ、もしかして藤原君と尾崎センパイを天秤にかけてるん? えええっ! 小夜香、悪女やん、やるやん!」


 僕が、藤原君ていったい誰? と首を傾げるのと、小夜ちゃんが「そんなん違う!!」と声を上げるのが同時だった。


 久しぶりに聞く小夜ちゃんの大きな声に驚いて思わず隣を見てみると、小夜ちゃんは首をすくめて「美紀ちゃん、そんなん……違うって……」と、小さな声で繰り返していた。


 前席の方では村澤&川城の二人がクスクスと笑いを押し殺している。僕は何か自分だけが置いてけぼりを食らったみたいで、ちょっとだけ腹が立ったのだった。


 そんな僕の少々不機嫌な顔がバックミラーに映ったのだろうか、川城がニヤリと笑って村澤さんを肘でつつく。つつかれた助手席の村澤さんはまた後ろを振り返って、フフフと笑った。


「あんな尾崎センパイ、小夜香がフリーになったいう話が広まったら、藤原君に告白されたんやで!」


「もう、美紀ちゃん!」


「ええやん、ホンマのことやから。センパイ、藤原君て知ってる? 野球部の、今年三年の」


 確かめるような村澤さんの問いに、僕は首を横に振った。一つ年下で野球部の藤原と言われても、どこの誰だか知らなかったのだ。


「ああ……、まあ尾崎センパイ、あんまりそういうのに興味なさそうやったもんなあ。藤原君、格好ええし、背も高いし、女子に人気あるんやで。少なくとも去年の尾崎センパイよりは」


「ああ、そうなんや……」


 そう言われても僕はその藤原君を知らなかったし、去年の僕が女子に人気があったかといえばまったくそんな気配もなかったので、そんな比較をされてもスルーするしかなかった。


「え? 尾崎センパイそれでよかったん? 小夜香を藤原君に取られても」


「美紀ちゃん!」


「なんで、小夜香もそれで悩んでたんと違うん?」


「そやから、そんなん違うって!!」


 そう叫ぶ小夜ちゃんの顔は、泣きそうになっていた。これはいくらなんでも村澤さんのやり過ぎだと思った僕は、「まあまあ村澤さんも……」と適当なフォローを入れたのだった。けれど村澤さんの質問は続いた。


「でも小夜香、藤原君はまだ可能性があるって思ってるで。あんな言い方したんやったら」


「……あんな言い方?」


 僕が小さく呟くと、「そう」となぜか村澤さんが返事をした。


「小夜香がハッキリ言わへんから」


 そう聞いて、どうハッキリ言わなかったのかが気になったけれど、それを僕が聞くのも筋違いだと思って、僕は黙ったままでいた。すると小夜ちゃんが言い訳をするように、ボソボソと呟く。


「いまは無理……。って、ちゃんと言ったのに……」


「それやん小夜香! 『いまは無理』やったら、そのうちOKやと思ってもしょうがないやろ。いつまで無理なん? 受験が終わるまで? それとも完全に尾崎センパイと切れるまで? それを私が聞いてもなんか要領を得えへん返事をするし。なあセンパイ、そう思わへん?」


 久しぶりに聞く村澤節に、僕は苦笑いを浮かべるしかなかった。美人だし、頭はいいし、友達の面倒見だっていい村澤さんだけど、僕は文芸部で一緒にいるうちに、この子と一対一で男女交際をするのは自分にはとても無理だと悟った。この村澤さん相手に、しかもこんな感じの村澤節を何度も聞いているはずの川城が、「付き合ってくれ」と言ったのはスゴイとしか思えなかった。


「尾崎センパイ! そう思うやろ?」


 振り返った村澤さんがもう一度同意を求めてきたので、またしても僕は仕方なしに口を開けた。


「うん……、まあ、どうなんやろ」


「ああ、そうやった。尾崎センパイやもん、そんな反応やわなあ……。ホンマにセンパイと小夜香、似たもの夫婦やわ。私、最初から小夜香には尾崎センパイがお似合いやと思うてた。なあ、川城センパイ」


 話を振られた川城はバックミラーで僕を見ながら「クックック」と笑い、似たもの夫婦と言われた小夜ちゃんは俯いて口をとがらせていたのだった。


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