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高校でクラスメイトだった彼女が妊娠したらしいから産婦人科について行った話、もちろんヤった相手は俺じゃない  作者: 櫛名田慎吾
② 先輩からもらったコンドームのせいで彼女と後味の悪いことになったけれど、やっぱりさっさと一人で使っておけば良かったと思った話。
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第25話   〃 なんや、やっぱり倉本ちゃんのことが気になるんか?

◇  ◇  ◇


『――で、尾崎ザッキー。お前、倉本ちゃん(くらもっちゃん)と別れたんか?』


 電話口でそんな不躾なことを口走ったのは川城かわじょうだった。さっきまで夏休みに高校の同級生とプチ同窓会をしただの、その時に文芸部の後輩に出会っただのという話題が出ていたので、僕はその時からなんとなく嫌な予感はしていた。だいたいコイツは文芸部員でもなかったのに、なんで卒業したあともOB面をしているのだろうか。


「いや、別れたわけやない。と、思うけど」


 僕はそう答えながら、思うけど、って自分で言うなや、と自己嫌悪に陥る。


『なんやそれ、倉本ちゃんと一緒でハッキリせん奴やなあ。ザッキー、お前このまえの夏休みにも倉本ちゃんと会わへんかったんやろ? 帰省せえへんかったんか?』


「いや、帰省はしたで。お盆休みの三日間だけやったけど。あとの夏休みは、入れてたバイトが抜けられへんかったから……」


 これは半分ウソだった。抜けられないバイトなんかじゃなくて、僕は帰省して誰かと会うのが嫌だったのだ。特に高校に繋がる友達に。


『ふーんそうなんや。でも倉本ちゃんには会わへんかったんやろ、お盆休みが三日もあったのに』


 電話口の川城は容赦が無い。さすがは小学校からの友人ともいえる。


「うん、まあ。小夜ちゃんも受験生やし、忙しいかなと思って。で、どうしたん? 一ヶ月も経ってから夏休みの話なんかしてきて」


『お前なあ……。どうしたん、もないやろ! 電話しても出えへんかったやないかザッキーが』


「ああそうか。何回か電話してくれたんやな、悪いな。部屋におらんかったんやと思うわ」


 これも半分はウソだった。僕はしばらくの間、小夜ちゃんから電話の掛かってきそうな時間に敢えて部屋を空けていたのだ。


 あの()()の日のあと、数日から十日間は小夜ちゃんの電話を僕は待っていた。それでも電話が掛かって来なかったので、半月ほど経った頃に僕から彼女の家に電話をした。


 向こうの家に小夜ちゃんだけがいて、彼女のお母さんがいないような時間を見計らって掛けたのだけど、電話には誰も出なかった。次の日も、同じように電話をした僕の耳には無意味に呼び出し音が響いただけで、十二、三コールを鳴らして僕は受話器を置いた。


 それからだった。僕は小夜ちゃんに電話を掛けるのも出るのも怖くなったのだ。


 小夜ちゃんから十日以上も電話がなかったということは、僕を許してはくれないのだろうな、という嫌な想像に変わり。許してくれないということは、別れて欲しいという電話が掛かってくるものだと思い込むようになった。


 別れて欲しい――。


 そんな電話に出る勇気なんて、あのときの僕には無かった。そんな電話に出るくらいなら、いっそのこと自然消滅の方が格好いいじゃないか。などという妙なプライドさえ生まれてきて、僕は特定の時間には部屋を空けて、家族には「この時間はアパートにいないから」と告げていたのだった。


『――おい、聞いてるか? おい! ザッキー!』


 この数ヶ月間をボーッと思い返していた僕の耳に、川城の声が響いた。


「ああ、すまんすまん。なんやった?」


『そやから、じゃあ新しい彼女でもできたんか? いうて聞いたやろ!?』


 新しい彼女? と僕は不思議に思ったけれど、よく考えれば不思議でもなんでもない。川城のなかでは僕と小夜ちゃんは既に別れたことになっているようだった。


「そんなん……、できるわけないやん」


『なんや、やっぱり倉本ちゃんのことが気になるんか?』


「いや、そやから、あの子も受験生やし。いろいろ忙しいやろうから……」


 僕がブツブツと小声になって言うと、川城は電話を通してでもわかるように大げさにため息をついた。


『……はあ~、まあええわ。電話代がもったいないからもう切るわ。そやけどザッキー、電話には出えよ。それから年末には家に遊びに行くからな、紹介したい奴がおるし、ハハハ』


「おい川城、勝手に決めるなや。それに紹介したい奴って、誰やねん?」


 そんな僕の質問に、川城は電話口でゲラゲラと笑いながら『俺のカノジョや、カノジョ!』とふざけるように言って勝手に電話を切ったのだった。


「なにがカノジョや! 人の気も知らんと!」


 と、僕はたたき付けるように受話器を置いたのだけれど、当の川城はそれからも一月に一回程度『おいザッキー、彼女できたか?』と自分の幸せを見せつけるように電話を掛けてきたのだった。僕はその度に「できるか、アホ」と返し、そしてそう言った瞬間に小夜ちゃんのことを思い出しては、チクリと胸が痛んだのだった。


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