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高校でクラスメイトだった彼女が妊娠したらしいから産婦人科について行った話、もちろんヤった相手は俺じゃない  作者: 櫛名田慎吾
② 先輩からもらったコンドームのせいで彼女と後味の悪いことになったけれど、やっぱりさっさと一人で使っておけば良かったと思った話。
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第18話   〃 アレが財布からポトリと落ちたのだった

 小夜ちゃんと下らない、というか高校時代の延長のような話をしていると、時間はいつの間にかお昼前になっていた。


 僕がお昼になにか食べたいものがあるかと聞くと、意外なことに小夜ちゃんはコンビニの弁当でいいと言い出した。


「コンビニの弁当でええん? ホンマに?」


「うん、だって私、食べたことないし」


「ああ、そうか……。そうかもな」


 さっきコンビニに寄ったときに、小夜ちゃんは店内をチラチラと興味深そうに見ていた。この時代、田舎にコンビニはまだ進出しておらず、当然僕たちの郷里には個人営業のスーパー等しかなかったのだ。


 そんな田舎の高校生である小夜ちゃんが、テレビで見ているだけのコンビニの弁当に興味があってもおかしくはない、と僕は思った。なにしろ一人暮らしを始めてすぐに自分自身も思ったことだったから。


 △


「小夜ちゃん。なんか嬉しそうやけど、そこまで期待するほどのもんと違うからな」


 アパートを出てからすぐの坂道を下りながら僕は言った。


「なんやったら、ほっかほっか亭で売ってるヤツのほうが美味しいかもしれんし」


 と、続けた僕の方を見上げて小夜ちゃんが可笑しそうに笑う。


「ほっかほっか亭は食べたことがあるもん。別にセンパイが心配せんでも、興味があるだけやから」


 そう言って、小夜ちゃんは僕の手を引っ張りながらコンビニへと向かっていった。


 僕の家の近くにあったコンビニは、いまは無きサンチェーン。この頃すでにサンチェーンはローソンと合併していて、近隣のサンチェーンは猛烈な勢いでローソンに改装されていっていた。


 そのサンチェーンの扉を開けて、僕と小夜ちゃんは店内に入った。当然と言えば当然だけれど、コンビニの中はさっき立ち寄った時と変わりはなく、店舗に入った目の前の弁当コーナーには弁当が並んでいた。入り口の窓側に沿って並んでいるのは雑誌コーナー、右側の壁には保冷庫に収まったペットボトル類。いまのコンビニと違っていたのは、まだトイレが開放されていなかったことと、ATMのような機械がなかったことくらいだろうか。


 そんなコンビニの中を、やっぱり小夜ちゃんは物珍しそうにキョロキョロと眺めていた。僕はカゴを持って彼女のあとに続き、小夜ちゃんの気が済むように買い物をするつもりだった。


「センパイ、どれが美味しいん?」


 並んでいるコンビニ弁当を前にして、小夜ちゃんが僕に聞いた。トンカツ弁当、のり弁当、おにぎり、サンドイッチ、冷やし中華、いろんな弁当が並んでいたけれど、どれが美味しいとかと聞かれて『これ!』と即答できるほど差があるものでもない。僕は二~三秒考えて、ミートスパゲティを指さした。


「ミートスパゲティ、まあそこそこ美味しかったかなあ」


「へえ、そうなんや」


 と、小夜ちゃんは何の疑いもなさそうに、ミートスパゲティを手に取ってカゴに入れた。


「えっ、ええんか? そんなサクッと決めて」


 驚いた僕が聞くと、小夜ちゃんはニヤッと笑って「美味しくなかったらセンパイのと替えてもらうから」と言う。


「まあ、ええけど」


 そう僕は応じて、彼女と同じように弁当の中から麻婆丼を選んで手に取った。すると――。


「ああっ、センパイ、私が辛いん苦手なこと知ってて!」


 と、隣からストップがかかる。


「ああ、ごめんごめん。じゃあ小夜ちゃん選んで、二番目に食べたいヤツ」


「う~ん……、そうやなあ。センパイ、どれが美味しいん?」


「いや、そやから……」


 そんなコントのようなやり取りをして、結局ミートスパゲティとトンカツ弁当に決まった。そのあと飲み物のところで小夜ちゃんは再び、いちごヨーグルト味のピクニックをカゴに入れる。それを見た僕は思わず首を傾げて言ってしまった。


「小夜ちゃん、スパゲティにいちごヨーグルトのピクニックって、どうなん? 合うかな」


「ええやんセンパイ。私、一途やから」


 小夜ちゃんはそう言って、クスリと笑った。


「一途、なあ……。まあええけど」


 一途って、そういう意味で使うのだろうかと僕は疑問に思いながらも、僕は弁当と飲み物が入ったカゴをぶら下げてレジへと向かった。


「ほか、なんにも欲しいものない?」


「う~ん、特にない」


 隣を歩く小夜ちゃんはなにが嬉しいのか、さっきからニコニコしていた。


「小夜ちゃん、なんか嬉しそうやけど、ピクニック二本飲めるから?」


 そんなことを言いながら僕はレジにカゴを載せて、財布を取り出そうとポケットの中に手を入れた。


 店員さんが弁当のバーコードを読み取って「温めますかあ?」とやる気がなさそうに言うのと、小夜ちゃんが「なんでやねん!」と僕に突っ込むのが重なった。


 僕が「痛いやんか」と小夜ちゃんの方を振り返ったのと同時に、店員さんが再度「温めます?」と聞いてきた。


 これが悪魔の瞬間だったと、このあと数日間僕は恨んだ。手に持った財布を床に落としたのは自分の過失だったのに……。


「えっ、ああ、お願いしま――」


 その時、ポケットから取り出そうとしていた僕の手からポロリと財布が落ちていった。


 あっ、ヤバい。と僕は普通に思ったけれど、特に床に落ちて壊れるような財布でもないし、中にコンドームを入れていたことなんて忘れていた。


 財布は僕と小夜ちゃんの目の前でゆっくりと落ちていき、ボトッという音とともにコンビニの床に落ちた。落ちた場所は小夜ちゃんの足下で、小夜ちゃんが「あっ」と小さく呟いてそれを拾った。


 落ちた財布を小夜ちゃんが拾ってくれたのは良かったのだけれど、その持ち上げる方悪かったのか、僕の財布からカード類と一緒にアレがポトリと床に落ちたのだった。


 アレとはつまりコンドーム。


「あっ!!」


 僕は一瞬で思い出した。財布の中にコンドームが入っていたことを。


 散らばったカード類と一緒に落ちたコンドームを僕はすぐに拾おうとした。


 けれど一瞬早く、中腰のままだった小夜ちゃんがそれを拾ってしまったのだった。


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