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高校でクラスメイトだった彼女が妊娠したらしいから産婦人科について行った話、もちろんヤった相手は俺じゃない  作者: 櫛名田慎吾
② 先輩からもらったコンドームのせいで彼女と後味の悪いことになったけれど、やっぱりさっさと一人で使っておけば良かったと思った話。
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第08話  ’90 あの子、冷静に突っ込みそうやからな

◇  ◇  ◇


「尾崎センパイ待って……、切符、ない……」


 それは一時間半近くも汽車に揺られて、ようやく改札から出ようとしていた時だった。僕の後ろを歩いていた小夜ちゃんが、小さな声で言ったのだ。


「え? ウソやん? だって、倉本さん乗ったときにジーンズのポケットから切符出してたやん。俺も見たし、七百五十円の切符」


 思わず振り返って僕が言った。


「うん、私もそこまで覚えてるけど。……落としたんやろか」


「いや、そんなん、汽車降りて、ちょっとここまで来る間に落とすようなことある?」


 僕はそう言いながら、今朝早くに小夜ちゃんと出会い、村澤さんが来られなくなったという予想外の出来事からコッチの記憶を呼び戻していた。


 小夜ちゃんはボックス席の僕の向かいに座って、そこから席を立った覚えはない。トイレにも行っていないし、網棚に上げ下げする荷物なんて持ってもいない。汽車のなかでしたことといえば、普通に会話をした以外は小夜ちゃんがマンガを読んだり、僕が聴いていたウォークマンを彼女に貸したりした程度で、切符を取り出した覚えはなかった。


「ちょっと倉本さん、ここで待っとって。一応ホームまで見てくる」


 僕は泣きそうになっている小夜ちゃんにそう言うと、小走りでまだ汽車が停まっているホームへと向かった。東一番線へと向かうあいだ、僕は用心深く足下を見ながら歩を進める。駅蕎麦のいい匂いする場所を通り過ぎて、機関車がこっちを向いているホームまでやって来ても、どこにも切符なんて落ちていなかった。


「うーん、まさか車内?」


 そう思った僕は、まさに降車チェック間際の車内に入って念のために確かめた。車掌さんに「忘れ物ですか」と言われたので、切符が落ちてなかったかどうかを尋ねた。けれど、帰ってきた返事はノーで、切符は落ちていなかったという話。


 それを聞いた僕は、『もしかしたらもう一回七百五十円払わなアカンかも。半分くらい僕が払ったほうが……』などと最悪の事態を想像して改札口へと戻っていった。


 僕が首を横に振りながら改札口へと近づくと、小夜ちゃんは困ったような、それでいて何故だか嬉しいような、更に言えば恥ずかしそうな、極めて曖昧な笑顔で僕の方を見ていた。


「やっぱ無かったわ……」


 手をひらひらとさせながら言う僕の前で、「ごめんなさい、あった」と、小夜ちゃんが握っていた切符を見せる。小さな手のひらに載っていたのは、間違いなく七百五十円の切符。


「え、あったん!?」


「うん、あの、ここのポケットに入れてた」


 そう言いながら小夜ちゃんが、自分の白いブラウスの胸ポケットを示した。


「ああ良かった~。もし無かったら俺、もう一回払わなアカンかもって思ったんや」


「ごめんセンパイ。私こんなんやから、美紀ちゃんにいつも突っ込まれる」


「ああ、村澤さんな。あの子、冷静に突っ込みそうやからな」


 僕は入部したときの凸凹コンビの二人を思い出して、ついフフッと吹き出してしまった。


「尾崎センパイ、あの……。絶対にこのこと美紀ちゃんには言わんとってください。それから多分、今日、いろんなことやらかすん違うかなと思ったりしてるけど、なんかあっても言わんといてください」


 困ったような、そしてどことなく拗ねたような目をした小夜ちゃんは、そんなふうに村澤さんへの口止めを僕に頼んだ。僕はそれが少し面白くなって、小夜ちゃんをからかってみる。


「今日も()()()()って、どんなこと? 財布落とすとか、迷子になるとか? あとは……はしゃいでけるとか」


「もう! 子どもやないんやから! ……でも、財布だけは落とさんようにせんと」


 そう言って可愛い肩掛けのカバンから財布を取り出して確認する小夜ちゃんを見て僕は、『見た目通り、真面目な子なんだろうな』と思ったのだった。


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