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高校でクラスメイトだった彼女が妊娠したらしいから産婦人科について行った話、もちろんヤった相手は俺じゃない  作者: 櫛名田慎吾
② 先輩からもらったコンドームのせいで彼女と後味の悪いことになったけれど、やっぱりさっさと一人で使っておけば良かったと思った話。
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第05話   〃 あの服だとお昼にカレーうどんは絶対に無理だな

 僕の実家のある最寄り駅と、高校の最寄り駅は一駅しか離れていない。


 たった一駅とはいうものの田舎の一駅は区間が長く、特急でもないのに平気で十五分以上も汽車が走ったりする。

 

 村澤さんと小夜ちゃんは僕とは違う中学校の出身で、高校へは歩いて通学している。つまりは彼女たちは今日、一つ先の駅からこの汽車に乗ってくる予定だった。


 今日は五月のいい天気で、雨の心配はまったくない。そんな青空が見える日曜日。僕は登校日でもないのにいつもと同じ時刻の汽車に乗って、いつもと違う空いた車内に座って、ぼんやりと今日の行動予定を考えていた。


 この時の僕はまだ頭の中の七割方は村澤さんのことで占められていて、小夜ちゃんのことはあまり意識の中になかった。適当にアニメイトについて行ってやればいい、くらいにしか思っていなかった。


 ◇


 そんなこんなで物思いに耽っていると、汽車は狭いトンネルを抜けて高校の最寄り駅に近づいていく。徐々にスピードを落としてプラットホームに滑り込んでいく客車の窓からは、村澤さんと小夜ちゃんの二人が見える――はずだった。


「えっ?」


 僕は右の車窓を眺めながら、思わず声を出してしまった。プラットホームに立っている人物が、小夜ちゃんだけしかいなかったような気がしたのだ。


 私服だから見落としたかな。そう思っていると、車両の端のドアがガチャンと開いて、泣きそうな顔をした小夜ちゃんが入って来た。


 ジリリ……、と発車のベルが鳴り終わって、ガタンと客車がゆっくり引っ張られていく。その揺れに体を揺らされながら、小夜ちゃんはユラユラとボックス席の間を通って僕に近づく。そして、僕の座っていたボックス席のところまで来て、「お、尾崎センパイ、おはようございます……」と消え入りそうな声でお辞儀をしたのだった。


「え、えっと、村澤さんは? まさか、乗り遅れたん!? マジで!?」


 ガタガタとポイント通過の衝撃に揺れる車内で、僕は思わず疑問の声をあげた。小夜ちゃんの行動や表情から見て、どう考えても村澤さんがこの列車に乗っていないことは明らかだった。


「えっと……、美紀ちゃんは、その……、ちょっと来られへんようになって……」


「へ……」


 美紀ちゃん、とは村澤さんのこと。つまり村澤さんは来られないという。そんなまさかの話に、僕はつい情けない声を出してしまったのだ。


「あの、今朝早くに電話があって、その、お祖母ちゃんの病院に行かなあかんようになった、って……」


「ああ……、お祖母ちゃんの」


「うん、それで、私、尾崎センパイの電話番号知らんし、センパイに連絡しようと思ったら、もう汽車に乗るしかなくて……」


 カンカンカン、と踏切を通り過ぎる音がドップラー効果で低くなって遠ざかっていく。そんな中、小夜ちゃんはやっぱり泣きそうな顔で僕に説明をしていた。座席に座りもせずに。


「いや……、いやいやいや。えっ?」


 あまりの展開に僕の貧弱なボキャブラリーでは適切な返事ができなかった。再びカンカンカンと、次の踏切を通過した汽車がカーブで少し揺れる。


 小夜ちゃんの細い体が揺れるのを見た僕は、そこでようやく彼女が立ちっぱなしなことに気がついた。


「倉本さん、あの、まあ、座って」


 僕は僕のほかにだれも座っていないボックス席の向かい側に座るように、小夜ちゃんに勧める。すると、小夜ちゃんは頭を下げ、お辞儀をするようにして向かい側に座った。


 小夜ちゃんが何か言おうとした瞬間、汽車が川にかかる鉄橋に差し掛かる。ガラガラと大きな音に遮られた小夜ちゃんは、気圧されたように再び口を閉じてしまった。


 初めて見る私服の小夜ちゃんは、制服姿よりもちょっとだけ幼く見えた。膝が見えるか見えないかくらいのハーフジーンズに、薄い黄色のTシャツ。そしてその上には薄手の白いブラウスを羽織っていて、『あの服だとお昼にカレーうどんは絶対に無理だな』と、このときの僕は実にピント外れのことを想像したのだった。



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