みんなのところに
知らない匂い、知らない顔、知らない景色だけが、自分を取り巻く世界なのだと思い知った。どこまでいっても理不尽がまかり通る世界ということは、自分自身を持って証明済みだ。
分かっている。この世界にいる限り、追いすがる影がある。
偶然、自分に降りかかる災いを知ることがあった。このままでは大切なもの全てが、この手からこぼれ落ちてしまう。
けど、今は違う。理不尽な目にあったのなら、それに立ち向かうことだってできる。
光明をもって未知を照らすのは、いつだって心持ち一つだ。
だから負けない。いま彼女たちが、大切なものを取り戻すために旅をしているように、自分も立ち向かうために戦うことにした。
種は病院を飛び出す前に蒔いた。あとある場所までの旅路をひたすら進むのみだ。
裏路地を中心に人気のないところを進んでいく。手持ちの荷物は最低限に、道行く人達にとけ込むように堂々とした態度を貫く。
頭の中では、雪原で歌い上げる自分の姿が映っている。不安になったときはあの歌を口ずさみ、困難を乗り越える心持ちを形成する。そうやって知らない街から知らない街へ。
だがそんな旅を何日も続け、ついには手持ちのお金が底をついた。ここ数日は、ろくに食べ物を食べていない。故郷とは違い、水でやり過ごす事も考えたが、海外の水が合わなかった場合、お腹を下し旅どころではない可能性が出てくる。なので、水も飲まずに旅を進めていく。
しかし約束の日はまだ遠い。その約束すら確約したものではない。ただの期待だ。
「……お願い、来て」
膝にムチを打って一歩ずつ前へ進む。
「みんなの、ところに」
膝が地面に付く。体が思ったように動かない。飲まず食わずで進めるほど楽観していたわけではない。最悪の場合、生きるための方策を取ろうとも考えた。だがこの身なりではどこの店に行っても門前払いを食らうだけだ。最初からそうできたらよかったのに、ユキナは後悔しない選択ができたことを誇りに思い、意識を失った。




