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Traveling! 〜旅するアイドル〜  作者: 有宮 宥
【Ⅰ部】第二章 海洋の旅と新たな旅人(アイドル)
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最後の手札


 アイカたちがシャンデリアをどかす。オービスが完全に地に伏しており、全身が傷だらけになっている。シャンデリアを頭上から堕ちて直撃したらしい。撤去作業が終わってから、テーブル前で佇んでいるミソラはオービスに言った。

「立てる? まだゲーム終わってないよ」

「……いまさら、ゲームなど」

「でもこれが、この国の選挙なんでしょ。それに、再び頭首に返り咲けば、貴方の処遇は少しはマシなものになるかも」

 無責任な物言いだと自覚している。彼はこの後、世界からの厳しい弾劾にさらされるだろう。報いを受けてほしいと願うものあれば、必ず裁きの矢が下る。ただそれが早まっただけだ。

「最後まであがいてみなさいよ。貴方が始めたことなんだから、幕引きぐらいは自分ので決めたらいたらいかが?」

 オービスがうめき声を上げる。立ち上がることもままならないのか。いいや、彼は立ち上がろうと足を働かせていた。

「誰かディーラーをやってくれると嬉しいのだけど」

「それじゃぁ、私にやらせて頂戴。解雇された身でもOK?」

「お願いするわ」

 テーブルにはヒトミをディーラーにミソラ、オービスの順番で座っている。ヒトミはトランプをシャッフルさせてから、一枚ずつカードを配っていった。ミソラの手札に来たカードをみて、頬を釣り上げた。

「チェック」

「では、コールを」

「ふふ、オールイン」

 手持ちのチップを前に差し出す。決して魔法の言葉ではない。すべてを掛けたところで相手の資金が全額手に入るわけではない。差額はオービスの方が多い。オールインしなくても、コールで済む。しかしミソラは確信していた。彼がオールインで勝負してくると。

「オールイン……市村アイカもそうしようとしていたからな」

 後はカードが配られるだけだ。5枚コミュニティカードが場に出る。

「ショーダウンの時間よ」

 ヒトミが言った。意識が残っている人間は少ない。気落ちした状態で、こちらの様子を眺めているものがほとんどだ。

 場に出ている5枚のカードは♡A、◇3、♤3、♧8、♧Kと、ワンペアがすでにできている。オービスからのショーダウン、札を翻した。カードは♧Aと♤Kのツーペアが確定した。

「ツーペアか。こんな最後の勝負で、地味な役だ」

「そうそうロイヤルストレートフラッシュがでるゲームじゃないんだから悲観することないじゃない。私なんか、鼻からツーペア狙いでいったもの」

 次はミソラが手札を翻した。オービスは観念したように息をついた。

「その手で、どうして勝負しようとしたのかね」

「これで勝負したかったからよ。2と3の屑手札で勝つことだってあるって知ってたから、勝負できたんだから」

 ミソラの役はコミュニティカードの二枚の3と合わせて、スリーペアとなった。

「3だけにスリーペア──どんなに数字が低くても、同じものの結びつきって強くできているのよね」

 それからミソラは四枚のカードで役を組んだオービスのものみて、こう言った。 

「でも貴方のツーペアの方がかっこよく見えるわ」

 どちらもストレートを狙える手札だった。もしストレート対決を行った場合、ミソラは確実に敗北していた。ペア同士のカードで良かった。

 オールインで負けたチップが、全額ポットへと行き渡る。これで片方のプレイヤーの持ち金が0になる。ミソラは立ち上がりさまにオービスへ言う。意気消沈の彼に、最後の言葉を放つ。

「楽しかったわ。この船の旅、大変有意義でした」

 ドレスの端をつまみ、ミソラはうやうやしく礼をした。オービスがそれをみて、かすかに笑った。

「こんな有様で楽しかったか。……宗蓮寺の人間は、やっぱイカれてやがる」

 まもなく日本での海洋の旅が終わる。海洋巡間都市サヌールは、長崎港へ到着したのだった。




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