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Traveling! 〜旅するアイドル〜  作者: 有宮 宥
【Ⅰ部】第二章 海洋の旅と新たな旅人(アイドル)
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はじめてのカジノ



 チップが弾けるようばらまかれ、歓声と悲鳴があがる。

 スロットやパチンコもあったが、参加者の殆どはルーレット台やトランプを使ったゲームに熱を上げていた。そんな様子に平衡感覚を失うような感覚をミソラは覚えた。ここで一攫千金を目指す理由はないが、目立つことは必要だと考える。カジノを慣れた足取りで進む西村壮太郎にしむらそうたろうに、ミソラは訊ねた。


「西村さん、一番稼ぎやすいのはやっぱりルーレットなのでしょうか」


「賭ける金額に寄るが、ディーラー次第で勝たせてくれることもある。ディーラーがあからさまに巻き上げることも出来るが、そんなんじゃカジノの評判はガタ落ちだ。ディーラーは常に目先の利益に囚われず、大局を見定める振る舞いしてくる」


「目先の利益、というとあえて高配当をプレイヤーに当てさせることで、次の高配当を期待させる心理を働かせる、というイメージでしょうか」


「おっ、イメージどころかドンピシャだ。カジノって実際の金とは違うから、金銭感覚が麻痺する。勝負にはリスクはつきもの。適切なタイミングをディーラーと一緒に探り当てるのは、対人戦の基本だな」


 カジノ内は多数の対人戦が揃っている。ブラックジャックを始め、ポーカー、ルーレット、バカラなど、カジノではよく見かける種目だ。ミソラが辛うじてルールを理解できるゲームは、ブラックジャックかポーカーぐらいだ。


「なるべく安全に勝つゲームがいいですよね。リスク負って大勝ちするより、コツコツ貯めたいです」

「それが罠なんだよ。ほら、上を見てご覧」


 ミソラは真上を見た。シャンデリアの照明と無骨な空調の隙間に、半円型の黒い機械をみつけた。


「あれって?」

「監視カメラだ。あれで不正を見逃すことはねえ」

「イカサマ対策は万全なのは分かりますが……」

「それもあるが、あれでプレイヤーの動向を調べているって噂だぜ。今こうしているあいだも、俺達の仕草を監視し、AIによってがどんなプレイヤーか定める。コツコツだってバレちまえば、ディーラーが勝たせないように指令が飛ぶはずだ」


 西村の憤るような声には、そのせいで負けてしまったのだと、自ら暴露しているように聞こえた。いったい、何のゲームで敗北したのだろう。


 西村がカジノの案内をしていく。手持ちチップは100枚程度。約十万円が、〈P〉が用意した金額だ。最低金額はスロット以外は五枚からだった。少額を賭けるか、大金を賭けていくかは運とタイミング。西村の言葉を信用するならばだが。


「西村さん、まずはカジノの雰囲気に慣れてみたいです」

「それならブラックジャックが初心者向けだな」


 ミソラたちはブラックジャックを行っているエリアへ移動した。あくまで情報収集のためのカジノであることを忘れてはならない。


 空席を見つけて、西村が席についた。レートは最低の五チップだ。

 カードを一枚ずつ出して、21を超えないようにカードを重ねていく。シンプルで奥深いゲームだ。もっとも、ミソラは数えるほどしかやったことがなく、いまいちコツを覚えきれていない。


「西村さん、ちょっとやってみせて」

「後でお嬢ちゃんも遊んでくれよ」

「はい、なんとか必勝法を見つけてみてせます」


 西村は茶髪の背筋の整った老年ディーラーと勝負を始めた。最初のゲームは互いに18同士でドロー。次に西村が20、ディーラーがオーバーして勝利。ドローした次のゲームは、掛け金分が配当となっていく仕組みらしい。


 5ゲームで一進一退の攻防を繰り広げたところで、「次が最後のゲームにするからな」と西村が言った。時間がかからないこともブラックジャックの利点だ。少額ずつ稼ぐなら、このゲームが一番適している。


 西村が4、6、8とカードを重ねていく。向こうは20で打ち止め。ここで彼は勝負に出た。一枚のカードが8のカードに重なった。3番を引当て、21という最高の型が成立した。


「へっ、どんなもんだい」


 自慢してみせる西村に拍手を送る。賭け事の定番らしい見事な展開だった。ミソラは内心、全く微笑ましく感じていなかった。

 ──ディーラーの人に操られている。

 そんな感覚を肌で感じとった。頭の中で、配当を数えてみても、少額の利益にしかなっていない。まさに少額のゲームとはよくいったものだ。

 ブラックジャックを任されるディーラーはミソラの勘では、カジノで最も優秀なディーラーではないだろうか。素人が戦って勝てるゲームではない。


「プロってすごいわね」

「おっ、嬢ちゃんもやってみたくなったか」

「じゃあ、少しだけお試しで」


 席から離れた西村が席を促す。そこに座り、緊張した趣で席に座った。


「えっと、よろしくおねがいします。ルール間違えたら、指摘してください」


 たどたどしい英語で語りかけ、ディーラーが柔らかな笑みで応えた。


「かしこまりました。ルールは先程で確認できたようなので、アドバイスを一つ」


 ディーラーはカードをトランプを表にして、扇状に広げてみせた。


「一回の勝負のうち、ヒット、スタンドを主として、同じ数字が二枚揃ったらスプリットさせてリスクを分散、三枚目しか引けない代わりに掛け金を二倍にできるダブルダウン。そして相手の初手にAが登場しているときに、ブラックジャックへの保険をかけるインシュランス。他にもルールが存在しますが、これを基本としてお客様の要望に合わせてルールを付け加えることもあります」


 西村はヒット、スタンド、スプリットを主として使用していた。ダブルダウンは持ち金が減ってしまうのを恐れてかやらないようにしていた。だがミソラは掛け金が多めだ。


「ちなみに、ディーラーである私は16以上でないと勝負できない決まりになっています。そこのところをどうかご了承を願いますよう」

「ディーラーさんは常にリスクをはらんでいるわけね」


 驚いたように演じ、内心ではディーラーが如何にプレイヤーに有利な立場か理解できた。プレイヤーが負けてしまうときは17辺りでスタンドし、ディーラーがそれを上回る役を出したとき、ディーラーの勝率があがる。無論、資金と勝負の出方も大事だが、ディーラーが常に攻めの姿勢を強いられるというのはデメリットに思えて、勝率を上げる最大の方法でもあるのだろう。しかもディーラー側は相手のチップがなくなるまでゲームに付き合う。無限のチップがあるといっていいだろう。


 カジノの仕組みが大まかに理解できた。この世界は、最終的にカジノ側が勝つ仕組みになっている。人々はゲームを楽しみ、または大きなリターンを求めて資金を差し出す。冷静さが欠いてく隙をディーラーは容赦なく奪い去っていく。

 果たして、ディーラーの微笑みの裏に、どれほどの計算が渦巻いているのだろうか。


「お手柔らかにお願いしますね……」


 かしこまりました、とディーラーはカードを戻し、懐へしまった。ブラックジャックで使うトランプカードはディーラーの側にあるカードシューから引き出されるようだ。


「端末をお持ちでしたら、台の下に設置していただければ、チップが可視化されます」


 言われたとおりにスマホをリーダーの上に置く。するとテーブルにホログラムのチップが出現した。それらを掌で弄んでもチップの感覚はなく、じゃらじゃらという音がなるだけだった。ミソラは手持ちの千枚のチップの半分に分けた。5ゲームでカジノの雰囲気を味わえたらいいなと、ミソラは思った。


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