表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Traveling! 〜旅するアイドル〜  作者: 有宮 宥
【Ⅰ部】 第一章 Traling,始動
31/287

誰かのために描く世界


 大阪府のコインパーキング前に到着した。一行はユキナの両親に礼をいい、新たな車に乗り換えた。新車ではなさそうだが、前のキャンピングカーと同じ設備が整っている。ただしベッドは少し狭くなってしまった。


『世話になった。私の突然の要求を飲み込んでくれたこと、心より感謝する』


「娘が信用したんだ。……俺たちが出来ることがあれば何でも言ってくれ」


 後日、連絡を入れると言って〈P〉は一足先に車内に乗り込んだ。続いてラムが運転席に、アイカはラムの護衛のため、助手席に座ることになった。

 ユキナは両親と抱擁を交わしていた。まるでクライマックス前の映画を見ているようだ。


「こんなときじゃないと、『ありがとう』とかいえないね」


「いいのよ、こんなときにじゃないと伝わらないもの」


「……俺は後悔していることがある。娘じゃなくて、俺が感染していたら良かったのにってよぉ」


「馬鹿ね、あなた。あなたが生きているから、ユキナも私も不自由なく暮らせているのよ。それに──」


「二人とも『もしも』の話なんてしないでよぉ」


 じっと見つめるものではない。自分に両親が居た場合、どのような関係を築けているのだろうと考えてしまう。もっとも、姉たちの語る父と母は、宗蓮寺グループをブラック企業に仕立て上げた悪徳にあふれていたらしい。姉たちが働き方を根本的に変えたおかげで、世界でも有数の優良企業へと成り上がったのだから


 姉たちはそんな努力もあってか、ミソラに対する情熱も親以上のものを捧げている気がする。本当の親は居ないけど、親代わりはいる。ユキナたちに対する微笑ましさも、その名残といえる。


「いってきます」


「いってらっしゃい」


 親子の最後の会話になるかもしれない。そんな雰囲気を感じさせないほどに、かわされたやり取りはごく僅かだった。ユキナが乗り込み、続いてミソラが乗り込もうとしたときにユキナの両親が『あの』と呼び止めた。


「……あなたのステージをネットで拝見しました。消される前でしたけど、DLできましたから。ハッピーハックの曲、歌ってましたね」


「まあ、突然流れたものですから」


「……はい。えっと、お母様も好きなんですか、ハッピーハック」


「……好きだったのだと思います」


「ファンだから分かります。あなたはあの曲を、体に馴染むまでに踊り続けていた。たぶん、世界で一番に」


 ユキナの母がまっすぐと見据えてくる。ごまかしは通用しない。本能的にそう悟った。


「曲がかかったら、不思議と体が動き始めたんです。反応したと言うと、ちょっと動物みたいであれですけど。……でも、あの曲に対しては背けていけない。そんな気がしただけです」


 ミソラは車内に乗り込んでから、二人に会釈した。相手の反応を待つ前に扉を締めた。


 内装を確かめにあたりを見渡すと、異様なものが二つほどそこにあった。一つは電子ピアノ。そしてもう一つがノートPCだ。


「……お膳立てしすぎじゃない?」


『アイドルには必要なものだろう。他は君たちが用意するといい』


 受け入れることしかできなかった現実を、彼女は手にすることができた。様々な思惑の中の一端に過ぎない。だがその中でも選択できることはある。


「──旅するアイドルなんだっけ、私達って。なら、すこしだけそこに与ろうかしら」


 ステージに立つことで、人を動かすことができた今までとは違う。立ったところで凶弾に倒れるだけだ。なら、他のアプローチからすすめるしかない。


「ユキナさん、あなたの思いを描いて頂戴。私が、曲を作るわ」


 そして歌うのだ。原ユキナが思い描く『世界』のあり方を。


 ミソラがテーブルに付いた。それから〈P〉、アイカ、ユキナが椅子に座る。顔つきに強い意志がこもっている。ミソラは開口一番に宣言した。


MVミュージックビデオ、初めてだけど作ってみましょうか」


 まさにアイドルらしい活動ではないか。もっとも世間で一番エキセントリックなMVになりそうな予感だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ