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Traveling! 〜旅するアイドル〜  作者: 有宮 宥
【Ⅲ部】第九章 IDOL CRISiS
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失われた役目



 州中スミカはある車に乗り付け”UN”という文字と旗を掲げた施設へと足を踏み入れていた。所持品にあの仮面を持ってくるようにと通達もあり、先のザルヴァートが引き起こした噴火も相まって、自分の役割が果たされるのだと覚悟を持ってやってきた。しかし、それは無惨に打ち砕かれることとなった。


「どういうこと! わたしを作戦から外すって!?」


 スミカはエアディスプレイ上の人間たちに叫んだ。

 画面上にいる連中たちの名前をスミカは知らない。国連の上層部と名乗っているが、別の上層部がいるかもしれない。


『気を静めるように。こちらの通達はこれ以上ありません。州中スミカ、仮面をこの場においてください。そうすればあなたは今まで通りの安寧を享受できます』


「納得できないって言ってんの! わたしが、なんのためにあなた達に協力してきたと思ってるの!」


 机を思い切り叩く。そうでもしないと周りに当たり散らしそうだった。ここまで案内してくれた国連の職員も怯えた様子で見守っていた。


『もちろん、あなたの願いを叶えるとの同時に、その仮面のテスターとして役割を果たしてくれたからです。しかしこれ以上はあなたの身に危険が及びます』


『ザルヴァートはもはや個人の力でどうにかできる存在ではなくなりました。わかっているでしょう。あの富士山を人為的に噴火させたのですよ。それはまるで狼煙のように、世界中でテロが勃発する事態にまで発展しています』


「……だから、わたしはお役目御免ってことなんだ」


 彼らは国連の上位陣で、各国から集ったエリート集団だった。世界の秩序を保つため、人類の保護活動を世界中で行っているが、ときにはクリーンなイメージとは変わるような非合法な活動も行っている。この手に持っているケースの中身──仮面もその一つだ。


「まだ、あいつらは誰かの命を奪おうとしている。のうのうとあんなことをしでかして、命を嘲笑って……」


 握りこぶしに力がこもる。スミカの憎しみを理解しているくせに、不必要だと切り捨てるやり方は気に入らない。なぜなら、自分の憎しみをあの子にぶつけてしまった。この仮面は装着者に万能とも言える力を与えるが、自我を見失ってしまう。スミカの場合、憎しみが過剰に増幅され、使ったあとには増幅した憎しみが直接刻み込まれてしまう。できれば使いたくない。だがいまのスミカにはこれしかザルヴァートと立ち向かうことができない。

 スミカは必死に劇場を抑え込み、頭を下げて懇願した。


「お願い、します。どんな命令でも聞きますから」


 みっともなく惨めたらしくても、力を失えば復讐ができない。本当に復讐するべき相手を定めた今、機会を失うわけにはいかないのだ。


「だからわたしから戦う力を奪わないで──」


「いいや、お前には必要ねえもんだ」


 そんな声が聞こえて、反射的に後ろを振り向いた。一瞬、幻覚を見ているものかと思った。彼女が死んでしまった事実を受け入れなかった己の意識が作り出した。だが金髪の小柄な彼女はスミカの隣までやってきて言った。


「……よう」


「アイカ、ちゃん。だって、あの噴火で……」


「ま、色々あって生き延びちまった」


 アイカは複雑そうな顔で視線をそらした。スミカは泣きそうになりながら正直な思いを口にした。


「……よかった」


 溢れる思いが体を突き動かした。隣のアイカを抱きすくめる。確かに彼女のぬくもりだった。見ないうちに少し背が伸びていて、そろそろ目線が合うまでに成長しそうな気がした。


「無事で、よかった──」


 さらに抱きすくめようとしたが、アイカが力いっぱい振り払った。勢いあまって距離ができる。それはなんだか、アイカ自身が距離を取ったようにも感じた。


「お前らがスミカに力を与えた奴らだな」


『如何にも』


「人の憎しみを煽って戦わせて、自分たちは呑気に見物か。まさに特権階級の脳みそしてやがる」


 彼女の口調にははかとない嫌悪感がにじみ出ていた。普段からぶっきらぼうで愛想がないアイカではあるが、目の前にいる彼女はそれとも違う感情を帯びていた。


「で、スミカをクビにしてアタシを使おうってんだ。それなりのプランは聞かせてくれるんだろうな」


 スミカはようやくアイカが抱いているものの正体を掴んだ。憎悪だ。シャオ・レイと市村創平の存在。この期に及んで盤上のゲームに勤しむ国連の上層部。そしておそらくは、事態を止められなかった自分自身を許せないのだろう。


 しかし誰が責められるというのだろう。”旅するアイドル”は最善を尽くした。少なくともスミカはこのことを責める気は毛頭なかった。アイカが生きていてくれて心の底から安心しているからだ。


「ちょっと待ってよ。なんでアイカちゃんが!? アナタたち、アイカちゃんを戦わせるつもり?」


『当然、そのつもりで回収した。此度の件で結論が出た。毒にはそれより強い毒をぶつけるしかないと。君とシャオ・レイの体質は危険だ。人類の根幹を揺らぎかねない』


「だから管理ってか? いいか、これは呪いだ。てめえらが大好きな技術の粋をぶち込まれた産物でしかねえ。この仮面もな──」


 次の瞬間、テーブルの上に置いたスミカのアタッシュケースをアイカがひったくった。それからこんなことを言い放った。


「これを増産して兵力に考えてんなら今すぐやめろ。ザルヴァートには”技術的特異点”がバックについた。市村創平(クソオヤジ)がネットワークを介して洗脳しちまうかもしれねえぜ」


 スミカは驚きそうになるところを必死で呑み込んだ。どうして彼女の語る可能性に気づかなかったのだろう。市村創平は世間では非実在性の存在でいるが、スミカは彼は現実に存在しているとみていた。そしてアイカの言葉で全てを理解する。市村創平が肉体を捨て、なんらかの手段でネットワーク上を支配する存在へと成り代わっていたのだと。


「市村創平がAIに──」


「ああ。しかもアタシの知ってる”機会知性”と同等の存在だと思ったほうが良い」


『問題ない。この仮面は独自のネットワークによる秘匿通信で運用されている』


「……フランスの衛星から学んでねえのか? あれもお前らの言った独自のネットワークで、秘匿通信による運用じゃねえか。だからこそあの時までバレずにいたんだろ? じゃあなんで、あの衛星はザルヴァートの手に落ちたんだ。秘匿通信の傍受、ネットワークへのアクセスが可能だったからだ。つまり、いまこうして話し合いしている時点で筒抜けなんだよ」


 画面上で息を呑む様子で広がっていく。事の次第を向こうもようやく理解したようだ。この会話も筒抜けということは、


「”同族”ならともかく、この仮面はもう時代に合わねえ。──もはやネットワークを介した通信は無意味だ。わかんだろ、この意味が」


 現代人なら理解できることだ。情報は現代戦において最大のアドバンテージになり得るところを、市村創平が永遠に傍受される状況下になってしまった。もしザルヴァートに反乱を企てようものなら反撃を食らうか、別の形で利用されるのだろう。仮面を身に着けたスミカが戦いに赴き、何らかの洗脳を向こうが仕掛けてくる可能性が高くなった。

 アイカの言う通り、仮面はスミカに戦闘力をもたらす唯一の手段だった。絶対に失うわけには行かない。ただしアイカは反対派だった。


「で、本題だ。──アンタらより上の存在がいるんだろ。今もこうして聞いているはずだ」


『何が言いたい』


 国連の連中が語気を強めた。図星なのか、単純にアイカの態度にいらついたのか定かではない。どちらにせよ、アイカの思惑通りなのは間違いない。


「戦況はすでに動かした。アタシが持っている唯一の才能は、世界全体に動きを求める。ちゃんと対応しねえとかねえと、操り人形が死ぬぜ」


 アイカの言葉を理解するのに一瞬の時を要した。だが変化はすぐにやってきた画面上の人間たちが慌てた様子を見せてきた。


『……何事!? ここに攻めてこんできたですって?』


『なぜこの場所がわかったんだ! まさか、市村アイカ、貴様の仕業か』


『テロリストめ。おいそこの、女をひっ捕らえよ!!』


 画面上で騒ぎ立てる様子を見てスミカは戦慄した。アイカの言葉とおりに彼らは次々に通信が途絶していった。エアディスプレイは消え、あとに残ったのは


「嘘、だよね。これ、全部アイカちゃんが……」


「ああ。目覚めてすぐ国連の牛耳る奴らと取引をした。奴らを終わらせるためには足場が必要だったんだ。殲滅に邪魔な奴らはこれで消えた」


 信じがたい出来事だ。これが全部パフォーマスと言われても仕方がない。いまのスミカには目の前で起きたことの証明が不可能なのだから。分かっていることはひとつ。市村アイカは、以前の彼女ではなくなっていたということだ。


 ふとアイカがスミカに向き合った。スミカの手がアイカの両手に包まれ、まるで祈るように胸の上で掲げていた。胸が一瞬高鳴るも、アイカの表情は切実だったので嫌な予感を過ぎらせていった。


「スミカ、お前に誓う。ザルヴァートをひとり残らず根絶やしにして、二度と蔓延ることがねえようにだ」


「え──ガッ!?」


 次にアイカが抱きしめた。おかしい、と気付いたときには背中にしびれるような衝撃が走っていた。全身が前後不覚に陥りる。スタンガン的なものを当てられたのだと気付くには、すでに意識を失う寸前までにいった。アイカの言葉を耳にして。


「悪いな、最後まで復讐させられなくて。アタシが、全部終わらせるから──」


 市村アイカはそうして目の前から消えた。

 全部奪われてしまったのだろう。復讐の道具や足場、なにより友達を──。


「……アイカ、ちゃん……いかない……で……」


 またこぼれ落ちてしまった。

 気付くのはいつも、いなくなってからだ。








 そう。もうすべていなくった。

 あの噴火は生物を消し炭にし、徹底的に思い知らされた。地球という星の力は、どれだけ発達した社会でも克服できない。神の怒りとして恐れ、ときに敬ってきた。


 しかし人は意図的に自然災害を引き起こせるようにまでなってしまった。それを引き起こした者たちは、徹底した偽装ブラフ重ねでアイカすら騙しおおせた。”旅するアイドル”の介入は当然のように考えられたとみていいだろう。ふと、そんな思考をしている己を自覚してすぐにやめた。もう、全て終わったことだ。


「……ユキナさん、アイカさん……」


 ヒトミとユズリハは逃げ切れただろうか。あの規模の噴火なら巻き込まれてしまった可能性も否めない。だが、全て終わったことだ。


 なのに、なぜ私は終わっていないのだろうか。ミソラは途絶え途絶えになっていく意識の中でそんなことを考えていた。


「……私は……いきてる……」


 知覚と喪失の狭間のなかで、己の生存を証明する手立てがない。目の前は真っ暗で何も見えない。

 ふと、全身が大きく揺れはじめ後頭部に衝撃がやってきた。痛い。沿う感じたときに、ミソラは絶望の奥底へと陥ってしまう。


「……なんで……?」


 生きている理由なんてどうでもよかった。また生き残ってしまったことに絶望した。

 不幸がめぐりまわっているのに、どうして死は自分の元へやって来なかったのだろう。


 〈エア〉が顔に硫酸を浴び、邸宅が燃やされ、そして富士山の噴火に巻き込まれても、宗蓮寺ミソラは生き残った。代わりに大事な何かを失ってしまう。まるでその等価交換でもしなければ生き残れない人間だと知らしめるようだった。


 しかも、今回ばかりは無理だ。

 立ち上がる気力も勇気も出てこない。


「……車の、中……運転してる」


 床から伝わってくる振動や時折やってくる揺れには馴染みがあった。目の前の暗闇はトラックのトレーラーのようなところに閉じ込められているからだ。


 ふいに宗蓮寺ミソラは意識の底へと沈んでいった。次目覚めたときは、全部夢であるように願う。

 ──当然、夢でもなんでもなく、ミソラに降り掛かった出来事は全て現実だった。





『それが君が国連の施設で見てきた全てか、州中スミカ』 


「……はい、そうです。そうなんですけど……」


 スミカは困惑の渦中にいた。これと比べたらアイカに気絶させられたことのほうがまだ人の理解に収まる。白い壁によりかかり、腕を組んでこちらを睥睨する謎の仮面は、合成音声を発してスミカに語りかけてくる。


『やはり、あの噴火を見越して動いていたようだな。あちらはアイカくんを利用するつもりでいたようだが、逆にしてやられたのか。実に興味深い出来事だが、後にしておこう』


「あ、あのぉ、ちょっとこの人の整理をさせてください!」


 スミカは間髪入れずに手をあげた。病室にいたスミカ以外の三人は


「えっと、ラムさんにハルさん。二人がいるのは、まあ分かります。この仮面の人って誰ですか?」


 ベッドの真正面に陣取る黒と金をあしらった仮面に似たような衣装を合わせている謎の存在がいた。目覚めたときに幽霊でもいたのかと思ったものだ。


「あら、しらないの? 元国連所属なのに」


「聞いてないですっ。あっちも秘密主義だし、こっちはあの仮面があればそれでよかたから──。もしかして、仮面被っているのって!」


「違います。彼はそもそも人間ではありません。自律化型のAIと考えていただくと理解が早いと思います」


 ラムが〈P〉の横に並び仮面をノックみたいに叩いた。『本気でみせるつもりか?』と〈P〉の言葉に、「証明には一番早いです」とラムが返しているなか、突如〈P〉の仮面が首ごと外れた。


「ぎゃああああああ!!!」


「あら、器用なことで」


 ハルは冷静だった。


「く、くく、首ぃ。どうなってるの〜〜!!」


『心配はいらない。これで私が人間ではないと証明ができたのではないかね?』


 手を上げてアピールする黒装束をみてまたもや悲鳴をあげる。これでは埒が明かないということで、ラムが取った頭を元にもどした。


『ふむ、今度は四肢をもいでみせようか。人型の形で何年も過ごしてきたのでね。かの噂に名高い”ファントムペイン”というものが私に来るかもな』


「もういいやですっ、変なの見せないでよ〜〜」


 あまりに変なことばかり続いているからか、ちょっと泣いてしまった。夢なら覚めてほしい。ついでに今日の出来事も全て。


「はいはい、そこまで。〈P〉さんはこの見た目なのでスミカさんの心が開かないことを危惧したみたいなの。


「……別に変わることはないから。もう、色々と見捨てられたようなものだし」


 やけくそ気味にスミカは言った。国連との契約は実質打ち切り。仮面も没収され、とどめにアイカから絶縁の宣言だ。スミカの憎しみはアイカが晴らしてくれるとのことだ。

 スミカは仮面の人物とラム、ハルを見据えた。もう隠す必要はないだろう。


「わたしから聞きたいことがあるんですよね」


『ああ。主に君と国連の繋がりをな。君がザルヴァートのテロによって母親を殺された件は、先の”ドキュンメタリー”通りで良いのだな』


 スミカは頷いた。あの番組で語ったことが全てだ。数年前、難民の保護活動中に母はザルヴァートの化学兵器によるテロに巻き込まれ死亡した。母を失ったことによって、スミカは身がちぎれるほどの痛みを負った。ザルヴァートの首魁、市村創平が死亡したと発表されて、スミカは自分の人生というものを考えだした。このまま無為に過ごすこともあったかもしれない。たまたま町中でアイドルのスカウトに引っかからなければ、州中スミカというアイドルは誕生しなかった。


『国連との接触があったのはどの時期だ』


「去年の九月です。”旅するアイドル”が花園学園から旅立ってすぐに、国連の職員と名乗る人と接触しました。それからお母さんのことやザルヴァートのこと、そしてシャオ・レイがこの時期に日本へ潜伏したことを知らされました」


 最初は当然疑ったものの、海外で飛び回ってばかりの母のことを知れるチャンスだと思った。結果、母が海外で行った活動は誇らしく、国連側の要求を呑むのにハードルが下がっていたことは否めない。


「そこでわたしは”仮面”を渡されました。最初は最新のウェアラブル端末と聞かされたけど、でも使うつもりもないしなにより可愛くなかったから断ったんです。……そのあと、まあ、ちょっとした巻き込まれて、結局あの仮面をつけることになるんですけど」


 それが去年の十月の話だ。戦う力と母の仇を取る名分を手に入れた。ただ話すと長いので割愛させてもらう。ハルが「それ聞いてない」と立腹の様子でいたが、守秘義務ということで納得してもらうしかない。


『仮面か──我々の前に姿を表したのは二度。”実験都市白浜”で劇の最中に現れたのが君か』


「……嘘。あの突然乱入した騎士がスミカさん!?」


 どうやらハルもあの場面に出くわしていたようだ。


「だって、あれって確かもう殺し合っている感じだったって……」


「うん。あのときのわたしは──」


 ふいに記憶からフラッシュバックするものがあった。どす黒い感情を煮詰めて添加したような吐き気を催すほどの不快感をおぼえて、スミカは口元に手を覆った。胃からこみ上げてるものを意思の力でねじ伏せて、喉に酸っぱいものがとどまった。スミカは胸を抑えてうつむき吐息混じりにつぶやいた。


「……ふぅ……うぷっ…………はあ、はあ……ちがう……こんなの、わたしじゃないのに……」


 ハルが心配してかけよってきた。


「スミカさんっ、大丈夫!?」


「……はあ……ぁ……大丈夫、です……ちょっと、嫌なことを、思い出して……」


『精神増幅機能のバックファイアだな。例の仮面は装着者の最も強烈な感情を呼び起こし、目的に最適な行動を取らせる。君の場合は”憎しみ”なのだろう。だから君は、市村アイカとシャオ・レイに対して攻撃性を強めた。彼女たちこそが、君の憎しみの原点だからだ』 


「違う!」


 反射的に叫んでしまう。これを認めてしまったら、


「……アイカちゃんは、ちがう。わたしは、アイカちゃんを……」


 友達だと思っている。だが本当にそうだろうか。仮面を付けるとアイカに対する憎しみが強まってしまう。あるから増幅されるのだ。しかも白浜と東京で二度も戦った。一度目は本気で殺すつもりだった。そういう認識が頭の中でこびりついている。


「でも、よかったじゃない」


 ハルがスミカの背中に手を添えて言った。


「誰にも利用されずに済む。少なくとも、国連とは手を切って正解よ」


 顔を上げてハルを見た。そこでスミカは思い知った。ハルにどれだけ心配させたのかということに。

 アイドルは今年の四月に引退した。完全に足を洗って、ザルヴァートの殲滅に専念するためだ。それも終わった。


「そっか、もう憎しみに振り回されなくていいんだ」


 あの力をずっと使っていたらどうなっていたか、考えるのも恐ろしい。ならば、いいのではないか。


「アイカちゃんも、どこかに行っちゃったから」


 州中スミカの役割はここで終わった。

 では、残りの人生で何をすればいいのだろうか。

 ぽっかりと穴の開いた人生の中で、何が残っているというのだろう。


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