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Traveling! 〜旅するアイドル〜  作者: 有宮 宥
【Ⅱ部】第八章 黄金の静寂
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隣のあなたに



 日本中でインターネットにアクセスできなくなってから、一週間が経過した。始まりは六人のアイドルを名乗るテロリストからの宣戦布告だったはずが、都内を姿を見せるように駆け回り、最終的に国会議事堂へ侵入し総理大臣に手ひどい傷を負わせて姿を消した。最後に、”静寂”の世界を味わえと言い残して──。


 その余波は、過去例を見ないほどの混沌ぶりだった。インターネットにアクセスできなくなったことで、情報そのものが断絶した。テレビと電波すら遮断されてしまっている。当然、電話回線も繋がらなくなっているとのこと。ただネットそのものと遮断されてはいないようで、データの送受信自体は可能なことで、インフラ設備への影響はまったくないらしい。


 唯一、新聞だけが現実の情報源としての最後のものとなった。一番最初に報じられたのは、左文字京太郎の重症と”旅するアイドル”に加担していた松倉リツカの確保だった。付随して各種ネットへのアクセスができなくなっていることと、そして他の五人の面々の行方がわからなくなっていること。日に日に、号外として毎朝各住宅に配られていたものの、必要最低限の情報としてはいささか不足していた。──いいや、それだけじゃ足りないとさえ思っていた。


 あの日、”旅するアイドル”が奪っていったものはネットへのアクセス権だった。娯楽や勉学の場が奪われたと憤る声もある。だが総じて”情報”というほうが適切であった。それを失われた日本人たちはというと、全体的に見ればいつも通りの日々を過ごしていた。会社があるものは会社へ。学校があるものは学校へ。暇な人は、ネットでの気晴らしができなくなり途方にくれた。ただ娯楽がなくなったわけではないので、現実にある読書やゲーム機を通してのゲームをすることはできた。


 一番あおりを受けたのは、ネットですべての仕事をしていた労働者だ。彼らは仕事をする手段を失った。発信をしようにも、ネットにアクセスできないので声を上げることもできない。総じて、声を上げる手段を失った。


 一方、治安の方はどうかというと、各地で暴動が起きてはいたが一時的なもので終わった。その大きな要因は蜘蛛足だった。ネットにアクセスできなくても、自動的に繋がっているので、各種インフラと同様に駆動はしていた。蜘蛛足は自らの役目に準じ、暴動を抑えていった。一人で三人は容易に対処が可能で、圧倒的な数をものともしなかった。しかも政府や警察の要請ではないことは、警察の対応からでも明らかだった。あの警察すら、蜘蛛足の対応に驚いていたからだ。


 変化があるとすれば、全国の空港の様相だ。人がごった返していた。こんな国に用はないといわんばかりに、海外行きのチケットが売れていった。しかも購入するために空港へ並んでいる。海外からなら情報を得ることができると考えてのことだった。それも徒労に終わった。結果を言えば、海外ではネットは健在だったものの日本人がなんらかの形で利用すると、たとえ他者の端末であってもアクセスが不可能になった。


 新聞はこの日本の現状を、”旅するアイドル”リーダーの言葉を借りて”静寂”と表した。


 徹底した日本人に対しての仕打ち。何者にも繋がれず、楽しいも、つらいも、怒りも、情報の共有が失われた人種。いまや世界は日本のことをそう見ようとしていた。


 そのとき、日本に住んでいた一億数千人の民は、繋がりを失い孤立しはじめていた。




 転機が訪れた。その日の朝、”静寂”に変化がやってきた。朝八時、非常用のときにしかならなかった街のアナウンスが響き渡った。そこから発せられた声と名前で、人々の注意が向いたのだった。


『みなさん、おはようございます。左文字京太郎です。昨日までは国家の首相を任されていましたが、いずれその役目は別の誰かが担うことになるでしょう。歴史的に見ても、最も愚かな首相と罵りを受けているかもしれません。ですが、いまは皆さんの安全と今後のことについて、私の口からお伝えできればと思います』


『今朝、気付いた方もいらっしゃるかと思います。現在、電話回線が復旧しました。この事態を引き起こした”旅するアイドル”が引き起こしました。原因は依然として不明です。しかしこの段階で機能が戻ったのなら、意図的に仕組んだものと私は見ています』


『この場においては、ただ希望を示すわけにはいきません。なので、もし大切な人がいるなら、その方に無事を連絡してあげてください。近くで困っている方に手を差し伸べてあげてください。絆が失われた今、少しでもつなぎとめてあげてください』

 以上、左文字京太郎でした、と締めが入ったところで放送は終了した。

  


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