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Traveling! 〜旅するアイドル〜  作者: 有宮 宥
【Ⅱ部】第八章 黄金の静寂
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VS新たなる秩序 決着



 先人を切ったのはユキナだった。左腕に身に着けたガントレットから全てを撃ち尽くすほどのコインを放った。大抵はスタンコインで、相手を痺れさせるものでしかなく、鎧をまとった存在には皆無な攻撃だ。だがそれはあくまで視界を奪う目的で放たれたものだった。


 コインの隙間を縫うようにヒトミとユズリハが駆け抜ける。ユズリハは盾を捨て、自前の拳銃を左文字に向けて三発放った。足元への威嚇射撃程度になったものの、左文字が一瞬だけ動きを鈍らせるのを見逃すアイカではなかった。最後の一本となったナイフを振りかぶり、コインの膜の隙間に向けて投げつけた。あえてその箇所をユキナは通り道として設計し、言葉をかわすことなくアイカに伝達していた。当然、左文字は投擲ナイフの存在には気付いていた。手刀で打ち払えば、たとえ肉体を一瞬でも傷つける赫灼のナイフであっても大したダメージにはならない。そうして振りかぶり──今度は鞭がその腕に絡みついた。


 ヒトミは鞭を伸ばし腕を捕まえていた。当然、ヒトミに対しての意識はあったものの、多数に向かってくる攻撃に対して処理がほんの一瞬だけ遅れた差でこの結果となった。無論、ナイフはなんの障害もなく彼の胸に突き刺さった。初めて漏らしたうめき声。バラの棘にさされたような大したことない痛みであっても、暴力を無効化する機能を超えてきたとなれば精神的な攻撃として有効だ。続けてアイカは拳銃を持つ手を左文字に向けて、フルオートでぶっ放した。


 殺傷能力皆無の弾たちは、左文字の周囲に煙幕、粘着、閃光、パラライズと花火のように炸裂する。無論、傷ひとつ付いていない。だが意味はあった。


「これで全て撃ち尽くしました」


「あとは任せたぜ」


 拳銃の弾を撃ち尽くしたユズリハとアイカが同時に叫ぶ。


「さて、準備は済ませたわよ」


「──ミソラさん!!」


 ヒトミは鞭を切って左文字から遠ざかる。そのあとユキナもガントレットに装填したコインを切らせたあと、力いっぱいに彼女の名前を叫んだ。他の面々の意思を込め、最後の旅人は十分に溜まったエネルギーをほとばしらせて、直線上に立つ対象を見据えた。


 宗蓮寺ミソラは右足だけで跳躍する。ブーツの力を持ってしても、数メートルも飛ばない。しかし落下地点にゴスロリの腕が入り込んだ。潰された左腕と無事な右腕を組み上げて、ミソラがさらに跳躍する足場を作っていた。ミソラは遠慮なく足場となったリツカの手に乗り、膝を折り曲げた。リツカも力いっぱい踏ん張ってミソラを支える。ちょうど、ミソラのブーツとリツカのグローブのエネルギーが交わり、雷鳴の予兆をもたらす閃光が迸った。偶然噛み合った力と力は、一人の少女を空へと運んでいくのだった。 


「行って──こい!」


 リツカの咆哮と共にミソラは空を飛んだ。一直線へ進み、天井へとたどり着く。そのまま張り付くように手足がくっついていた。


「……ありがと、ユキナさん。それに、みんなも」


 この瞬間のために、皆が命をかけて作ったのだ。最後の一撃で雌雄を決するために。

 左文字が天を仰ぎ、受けて立つ準備をする。そのまま逃げれば彼の勝ちだ。だがここで逃げてしまえば、国家の首相としての威を示せなくなる。そのプライドがなければ日本の行く末もまた変わっていただろう。


 一瞬、視線が交わり合う。天に立つミソラと地で待ち受ける左文字。狙うはただ一点。最大の威力に最適の一では合ったが、狙いが悪い。しかし迷いで思考が止まる前にミソラは視界端で動いた彼女と同時に、天井に付いた右足を思い切り蹴り飛ばした。その余波で天井に穴が空くほどの威力で、それを鎧をまとっているとはいえ人に対して放つことになるとは、ミソラはまるで思ってもいなかっただろう。


 なんとか暴力に関わらず旅を終えたかった。家族を取り戻すためなら仕方ないと割り切っているとしても、そもそも暴力の被害にあった身として忌避するべき対象だ。それがなんの因果か、総理大臣に向けることになるなんて──。


 それにだ。アイカは以前、ミソラに対してこんな事を言っていた。


 ──お前、戦いの才能ないよ。


 今なら自分のことのように分かってしまう。分かりたくても分かってしまう。

 妙に冴え渡る思考に体の動き、予測に対する


 ──どうやら私は、あるかもしれない──。


 ミソラが狙う箇所が、最大限の協力を持って狙いが向いた。リツカが力を振り絞って左文字の頭部を掴みそのままのけぞらせた。上体がのけぞった左文字が裏拳でリツカを吹き飛ばした。これで左文字を害するものはいなくなった。しかし彼の抵抗も虚しく胸部装甲へミソラの一閃を食らうのであった。









 胸の痛みを自覚した瞬間、左文字ありえない、と思っていた。

 システム的に浮くはずがない足が浮いたこと。

 身体の自動制御が発動する前に、装甲が命を守る選択を取ったこと。


 宗蓮寺ミソラが放った一撃は必殺で、先程の小賢しい攻撃はこちらの判断を奪うために殺ったことだと。もちろん理解していたことだったが、ウィルスーツはこちらの意思を尊重してくれはしなかった。あくまで「命」を守るための装甲だ。左文字が反撃を企てることは「死」を迎えると同等のことだ。だからこそ、ウィルスーツは絶対的な防御を誇り、暴力が無意味になるはずだった。


 ならば、今打ち砕かれていくこの鎧はなんだ。

 ひとつひとつ、濡れた紙を剥がしていくような繊細で大胆な状況はなんだ。

 もはや左文字にできることはなかった。

 総理大臣になった時点で、逃げるという選択をできなかった時点で──。


「……僕は、負けたのか」


 非常に有意義なデータを手に入れることができた。ただこれで、この秩序は終りを迎えるだろう。侵略者に負けた秩序など、存在する意味なんてないのだから。




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