表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Traveling! 〜旅するアイドル〜  作者: 有宮 宥
【Ⅱ部】第八章 黄金の静寂
259/288

春風



 西暦2040年4月。

 陽気な風が運んでくるのは出会いと別れだけではない。誰も彼も新たな道を見つけ、期待と不安を抱きながら未来へ向かって進んでいくそんな時期のなか、日本はいま足元が崩れ落ちてしまう事態に直面していた。


『緊急速報。4月1日午後15時38分頃。長野県に新たに設立された実験都市”ヒノモト”から数キロ離れた山間から発射された物体が国会議事堂中央塔に落下する事件が発生。幸い死傷者はなかった。国会議事堂から約二百キロ離れた場所から発射された模様。これをうけ、自衛隊戦闘機がスクランブル発進する事態にまで至る』


 日本中のあらゆるメディアで報じられた一報に誰もが動揺を隠せなかった。誰かが口にした驚きがまた別の誰かへと伝播していき、瞬く間にほとんどの人が知る事態となった。なにより大衆たちが驚かせたのはその実行犯だった。


『なお実行犯は”実験都市白浜テロ事件”の襲撃犯である、”旅するアイドル”および”松倉リツカ”が共謀した犯行の模様。これを受け政府はテログループに対する強い姿勢をみせ、新内閣に就任した左文字京太郎は”非常に許されざる事態である。国家の威信にかけてテロを食い止める”と強い姿勢を見せた』


「”旅するアイドル”の犯行だって。また人殺したの?」

「いや、なんか長野からミサイルぶっ放して国会議事堂のてっぺんに自分たちのマークを突き刺したらしいぜ」

「え、意味わかんな。何のためにそんなことしたわけ?」

「これさ、あれじゃね。宣戦布告。漫画でそういう展開あったじゃん」

「やっば、国家転覆しようとしてんの? アイドルが?」

「ていうか二百キロ地点からのミサイルって……。議事堂壊されてたりする?」

「普通に無事なんだ。やるなら壊せばいいのい。なんかチグハグ」

「ミサイル撃沈できないって、なんのための自衛隊だよ」

「日本は本格的に終わりました。安全はどこにも有りません。海外へ逃げましょう」

「彼女たちは正しい! 悪しき日本を打ち倒す救世主です!!!!!」

「もう誰かなんとかしてくれ」




 あちこちでかわされる言葉の数々は、彼女たちの行いに対する反応で埋め尽くされていった。今まで世間を騒がせてきた彼女たちであったが、今回の行い対する反応は否定的なものがほとんどだった。


 しかしそこまでやっても、大衆の危機感は薄かった。いつもの日常、いつもの毎日が今も繰り返されると信じている。彼らにとっては、”実験都市白浜”で起こったテロすら他人事として捉えていた。


「お国柄ってホントよく出てくるわ。同じ日本人として、よくもまあ今まで生きてこれたもんよねえ」


「あの男の話を引き合いに出すわけじゃねえが、ザルヴァート全盛のときならひとり残らず殲滅できるって言ってたからな。それをやんなかったのは、もはや日本に利用価値がないってだけだったのか、最後に取っておいたのか今となっちゃわかんねえがな」


 ヒトミとアイカ、日本での暮らしが浅い者から出てくるのは、ある意味で客観的だと思った。しかしその対応を怠った結果、富良野や白浜での事件をもたらしてしまった。安全の国の名はすでに過去のもので、様々な動機で犯罪へ走る人間の温床となった。ただそういった悪しき風習は一人の総理大臣の就任による主導のもと、新たな日本を築き上げていた。


「ですが、日本には蜘蛛足が配備されていて、いくら犯罪を犯そうと新たな秩序が阻みます」


 ユズリハの言う通り、東京の街では蜘蛛足と呼ばれる警備ロボットが配備されている。時に街を監視する機構として、時に犯罪者を確保する秩序として。意外と愛らしいと世間では評判のようだが、彼女たちにとってはより殺人に特化した兵器としか思えていない。


「わたしたちはあれと戦って勝たないといけないんですよね」


「ええ。進行ルートには多数の警察や警備隊が配備されている。左文字京太郎は私たちが目標地点へ来ることを確信しているはずよ。よほど私たちを警戒しているみたい」


 つまり警備を強化するだけのものが”目標地点”にある可能性が高いということだ。それも当然だ。新たな秩序を形成するに当たって、人智を超えた存在を側に置きたいはず。何者にも脅かされないために


「ねえ、本当にあなた達が手に入れるものって……あんな場所に?」


 唯一、不安げな言葉を放つのは、新たに加入した旅人である松倉リツカだった。いつか見たゴスロリの格好は彼女の戦装束とのこと。また胸のブローチに球体の装置を身に着けている。


「さてね。それは行ってみないとわからないわ」


 ミソラは視線の先に見えるある建物を見つめた。他の者も同じように続いて見た先にあるのは、国家の中枢を決定するおなじみの建物──国会議事堂だった。


「それじゃ、みんなでやるわよ!」


「気は進みませんが、こうなってしまったのなら最後までお付き合いします」


「んなことって、途中で銃口向けてくるなよユズリハ」


 警戒しつつも、信頼に置いているという奇妙な関係の上に成り立っている。リツカは改めて思う。この集団はいったいなんだ。”旅するアイドル”は、国家というものに対して宣戦布告をおこなった。


「本当に、やるつもりなんだ……とんだ巻き込まれ事故なんだけど」


「わたしたちの旅を邪魔するってこういうことです」


「ええ──この国から取り戻すわよ。私たちの”旅路”を」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ