星の煌めき
ライブ本番に向けて気持ちを高めている。アイドルになってから本番でミスをしたことは一度もない。特に〈ハッピーハック〉が解散してからより一層を意識を強めたと思う。集団でのミスは他でカバーできる強みがあるが、一人のミスは責任が自分にしかない。一つ一つの場がみんなが喜んでもらう場所である以上、妥協は許さないと心境があった。ハルから「気持ちを高めすぎないように」とお小言をもらうほど、ライブ前のノアは気迫が溢れているという。
「ノアって、ライブ前そこまで怖い顔してたっけ?」
ふと近くに座っていた州中スミカが心配そうな顔で見つめていた。ノアは反射的に柔和な笑みへと切り替えたが、スミカは苦笑いを浮かべた。
「逆にぎこちないような。ていうか、ノアって作り笑いしないタイプじゃん」
「……そうだっけ」
「そうそう。なんかパフォーマンス中に自然に笑う感じ。本当に楽しいとか面白いときにしか見せない感じ」
「褒めてるの、それ」
「僻みちょっとだけあるよ。だってそれでもトップ行けるんだしさ。スミカみたいなのはどんなときでもニコニコしてないとダメダメなんですよぉ。とまあ、半分冗談はともかくとして──」
スミカは遠慮ない意見に気を落ち着かせた。
「シンポジウムのステージだからとか、海外のスターと一緒にステージに立つから……なんて理由でそんな顔にならないよね」
「……スミカって小悪魔自称してるくせして他人のことに敏感だよね。ちょうどいい塩梅だから売れてるんだろうな」
「え、めずらし。芸能人の人気とか気にするんだ」
「たまには考えちゃうよ。商売は売上があって成り立つ。もしそれがなくなったら、この芸能界はどうなっちゃうんだろうねって」
「話壮大すぎない?」
ノアもそう言われたことにより思考を膨らませすぎたことを反省する。だが普段からノアにはあけすけな意見を放ることがあった。こういう未来を語る真面目な議論を交わすのは実に半年以上ぶりだ。
この都市を取り巻く鬱蒼とした状況には、ノアのパフォーマンスのミスの一つや二つなんて些細なことだ。四万人ほどの集団自殺なんて現実味のない言葉が出てきたときは、流石に脳が拒否反応を示した。
それが”Lakers”の三人がライブ終わりに仮想空間へダイブしたときは、事はノアの想像以上の事態であると実感がやってきた。被害者ゼロでこのシンポジウムが終わることはないのだと。いまから立つステージで決断しなければならない。みんなを守るために、友人の晴れ舞台が日の目を見ることはないのだと。
「スミカ、ごめん」
「どしたの、謝られることなんて全然ないケド」
「ううん。これは本当に許されるべきじゃないし、許さないでほしい。──スミカはもう、このステージには立てない」
かもしれない、なんて甘えた言葉は使わなかった。文字通り、州中スミカのステージは開催されない。だからこそ最低限の説明を果たす義務がある。
「いま、この都市の裏で大変なことが起こってる。もしかしたらたくさんの人が死ぬかもしれない。……わたしはそういうときには全く役に立てない。みんな、なにかしらの戦う力があるから」
スミカは黙って聞いていた。不安になることも、激情を顕にすることもなかった。
「いま世界中でシンポジウムのステージが届いてる。そして猶予はもうない。……ついさっき、一人の人間が被害に巻き込まれて亡くなった。ううん、ずっと前からこの都市の中で、人が死んでいった──殺された」
「殺された……」
スミカが絞り出すような声で言った。事態の認識をようやく共有できた感じが伝わった。ノアの言葉を妄言と捉えないのはそれからこうも続けた。
「ノアは、誰かを守るためにいまからステージに上る。そういうこと?」
「……うん。わたしにしかできない、わたしのステージ。こんな形は二度とゴメンだけど──」
ノアはスミカをまっすぐ見据えた。これが友人との決別かもしれない。そんな覚悟も抱いて言った・
「誰かを不幸にする人がいるなら、わたしはどんなステージにでもしてみせる」
そうしてノアは控室を飛び出した。振り返ってはいけない。州中スミカの大切なものをすべて犠牲にして、明星ノアは輝きを強くした。
舞台袖へ駆け出すように到着すると、眩いばかりの太陽が待ち構えていた。彼女とすれ違い様にやってきた言葉を胸に刻んだ。
「なにもかも照らしてきなさい、ノア!」
【LIVE】[超新星☆NOAH]明星ノア




