この道
ユズリハの駆るバイクの後部座席で、ヒトミがユズリハが歌う楽曲を軽やかな鼻歌を歌う。前方には他のメンバーが乗ったキャンピングカーがあり、茜色の空を中を進んでいた。
「ふふふ♪」
「ごきげんですね」
「いやあ、あんな大勢の前で歌うなんて生きてるって感じがするわよね」
「いえ、別に」
「うそよぉ、あんなに気持ちよさそうに歌ってたじゃない」
「……青空の中で歌えば誰だってそうなります」
MV撮影は苛烈を極めた。最終的に京都の神社仏閣中が映る場所でのカットの連続、”旅するアイドル”を知る人たちから絡まれ、ちょっとした騒ぎに発展したりと大変なこと続きだったが、なんとかMVは完成した。
それらの件もあって、”旅するアイドル”の悪名は世間にまで浸透するのに時間はかからない。
「信じていた正義に裏切られちゃったね」
「……ええ。そうなってしまいました」
「元々禄なもんじゃないのよ、正義なんて。どうして正しくないといけないのか分からないわ。元々、碌でもない世界だし、禄でもない人間が蔓延る世の中。好きな人間を好きなように見て、嫌いな人間を嫌いになるものよ」
当然のことだ。誰だって、誰かのためには生きることはできない。誰かのためといい、自分の都合であることがほとんどだ。ユズリハだって自覚はある。命を守ると言いながら、自分の名誉や誇りを重んじての理念かもしれないのだ。ヒトミはどうだろうか。常に悦楽的な彼女がみせた”踏み越えてはならない一線”は、どのような経緯で獲得したものだろう。ユズリハには理解できない領域だ。嘘の記憶で守られ、生き長らえた自分には。
「だから私はこの世界のすべてを楽しむことにしたの。流されたり、突き進んだり、そんなランダムで溢れているから、この世界は良いものだって信じてる」
屈託のない笑みでそんなことを言ってのける彼女に、ユズリハは呆れながらもその頬はわずかにあがっていた。自分はそんなふうにはなれる気がしないが、ヒトミが見ようとしている世界を垣間見たことで、なんだか自分も気分がよくなった。
ほんの少しだけ、彼女のことが分かった気がした。
「あ、みて、夕焼け! 雲が輝いてるわ!」
「ええ、悪くない景色です」
「そうね! ふふ、もっとすごい景色と出会いたいものだわ」
こうして他愛ないことで己と誰かとこの世界と一体化していく。そういえば子供のとき家族で一緒に見たロードムービーで、バイクで二人寄り添って語り合うシーンが妙に印象的で心の隅に残っていた。
四角い世界がいつのまにか四方へ広がっていたようだ。両親の墓参りには、このことを報告しようかと、ユズリハは心に留めた。
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明星ノア、州中スミカを始めとした宗蓮寺グループ。エントリー。
内閣総理大臣、総理夫人、外務大臣。エントリー。
”救世主”。エントリー。
”旅するアイドル”および”技術特異点”。エントリー。
「世界に思い知らせる」
それで確かな変革を世にもたらすことができる。
「この世界の歪み。目をそらし続けた結果を」
さあ、消滅祭を始めましょう。




