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Traveling! 〜旅するアイドル〜  作者: 有宮 宥
【EX】第四章 Happy Hack.
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日と空の捜索


「おいおい、〈ハッピーハック〉ってのは行方不明にでもなるジンクスでもあんのかよ」


 志島が愉快げに笑ってみせた。翌日、姉が戻ってこないことを知ったアキたちは、昨日とはまるで違った表情をしていた。

 ノアは二人に平気だとは言えなかった。むしろ、彼女が出ていった時に麻痺していた感情が動き出したのだ。あそこで〈サニー〉をいかせてはならないと。


「あの女がもういねえんだ。お前ら、この家にいていいと思ってんのかぁ」


「……言われなくても出ていくつもりよ。準備をしたすぐに行くから」


「まあそうカッカすんなよ、お嬢ちゃん。俺は一応、金をくすんじまったことについては本当に悪いって思ってんだ。積立返してやったんだから、あんまり睨むなよ。あの女が帰ってくるまで、掃除洗濯風呂掃除してくれんなら、家にいさせてやってもいんだ」


 と言いながら、志島は昨日残りのご飯をかきこんでいった。口調は悪いが、案外悪人ではないのかもと思い始めた。だが姉弟は依然と警戒を強めたまま、志島と接している。彼女たちを見ならって、ノアも緩まないように気をつけた。

 朝ごはんを頂いたらやることは決まった。これから、例のバイト先に行き、〈エア〉の本名を教えてもらいに行こうと考えた。二人をこの家においていくことも考えたが、頼もしさに関してはノアよりあるので、三人で向かうことにした。


「それじゃ、志島さん。一晩泊めていただいてありがとうございました」


「なんだ、もう出ていくのか。お前ら、ネット上じゃまるで全国指名手配犯みてえな扱いされてるぜ」


「別に。馬鹿らしいと考える人が多数のはずだし。姉さんが帰ってきたら、連絡してきてって行っておいて」


「じゃあ、世話になった」


 一応の義理は果たしたと礼を言って、ナツとアキは先に部屋を出ていった。ノアも志島に会釈をして部屋を出た。そのときの志島の表情が哀愁を帯びていて、なんやかんやあっても先導家を気に入っているのかもと思った。

 帽子を深くかぶり、軽い変装を施しながら二人のあとについていく。朝の七時ということで、通勤中のサラリーマンや学生が通りを占めている。そんななかで、帽子をかぶった小さい集団は否応に目立つ存在だった。駅までもう少しというところで、駅前の交番で立っていた警官が近づき始めた。三人は知らぬ存ぜぬを貫き通そうとしたが、警官の呼び止める声で足を止めざるおえなかった。


「君たち学生? 今日、学校でしょ」


 先んじてアキが割り込んで警官の対応を始めた。


「親戚の家に遊びに行ってたんです。学校へはこれから向かうつもりです」


「念の為、生徒表を提示してくれる?」


 端末に登録されている生徒表は、学生だと示すために携帯が義務付けられている。最近は、非行防止のために警官が怪しい少年を見かけ学生だと確認できたときは手帳の提示をする必要がある。


「端末充電切れで」


「じゃあ、他の人のを」


「二人は小学生なので、生徒表は持っていません。もういいですか、学校遅刻するんで」


「……念の為、学校名を教えてもらえるかな。最近、物騒だからね。最近は若い子が家出する事例が多くて。確認だけだから」


 このまま逃げると面倒なことになりそうな予感だ。アキは長女なだけあって受けた答えはしっかりしているが、予想外のことには対処できないみたいだ。ナツはアキの背に隠れている。この窮地を脱するにノアのコミュニケーションでは乗り切れない。そんなときに、背後から高らかにクラクションの音がなった。思わず振り向いてみると、見たことある車から男が降りていった。こちらにやってきて、息をちらしながら言った。


「ああ、やっぱりこうなっちゃったか。ごめんなさい、本当は車でお送りしたかったんですけど、この子たちが大丈夫だからって言うもんですから」


 志島は普段の刺々しい口調を抑えて、穏やかで頼りない性格を披露していた。呆気にとられていたのはノアだけではなく、アキたちも驚きの顔でみていた。


「アキ、ナツ……ええと、セイコ、おばさんには予め連絡してあるから、車乗ってって。おまわりさん、余計なご足労を駆けてごめんなさい。そりゃ、怪しまれちゃいますよね、こんな格好」


 警官は志島の穏やかな態度に軟化したようで、申し訳ないことしてしまいましたと謝罪をした。それから志島の後をついていくように示し、ノアたちは状況を打開するためにミニバンへと乗り込んだ。扉がしまった瞬間、アキが喉に出かかった声を放つ。


「どうして、ここに来たの?」


「決まってんだろ。電車じゃお前らは目立つんだよ。特に金髪の女。顔みられたらすぐにわかんぞ。そうなったら、面倒だろ」


「そうじゃねえよっ。お前が来るぎりなんてねえし、こっちは呼んでねえ!」


 志島ははいそうですかと受け流し、そのまま車を走らせた。


「で、早く場所教えろや」


 次にそう言ってきた。アキたちは拒絶の態度を取り始めたが、ノアはすかさず割り込んで〈サニー〉と〈エア〉のバイト先の大まか位置を伝えた。


「電車で行くより、こっちのほうが安全だよ。……二人は嫌かもしれないけど、いまは使えるものは何でも使おうよ」


 ノアの言葉に二人は渋々頷いた。志島がなぜそこまでしてくれるのかは分からない。だが、いくら〈サニー〉たちに負い目があるからといって、ここまでしてくれるのは負い目以外のものを先導家に感じているからではないかと思った。

 車は四〇分で、目的地の知覚にたどり着いた。ここからは分担行動を取ることにした。車の中での待機役が志島とナツになった。


 ノアとアキは、高層レストラン『スリーアース』のある階へとたどり着き、閉店中と看板の隣にインターホンがあったのでそれを押した。朝から流石に人はいないだろうと思っていたが、ちょうど「はい」という男の声が聞こえてきた。アキは戸口に向けて要件を口にした。


「あの、先導ハルの妹の先導アキです。ここにお姉ちゃん来ていませんか? 昨日からここへ行ったきり帰って無くて……」


『先導ハル……て、まさか。ちょっとまってくれ。それは本当かい? それに隣の娘はいったい』


「えっと、私はアキさんの学校の先輩、です。今日、わたしのところに連絡が来て、心配だから付いてきて欲しいと……」


「お姉ちゃんがいないんです。お願いします、話だけでも聞いていただきませんか」


『わ、わかった。いま扉を開けるから』


 まもなくして扉が開いた。中からラフな格好をした中年男が現れた。ノアたちは彼の招きで中へと入った。


「えっと、貴方は店長さんですか」


「私はオーナーさ。昨日の後始末を店で残ってやっていてね。それで、ハルくんになにかあったとは」


「……ごめんなさい。お姉ちゃんがいなくなったのは本当ですけど、ここへ来たのはお姉ちゃんのことを尋ねに来たからじゃないんです。〈ハッピーハック〉の〈エア〉の本名をお教え願いませんか」


 アキがノアを一瞥の合図を送った。それからノアは帽子を取り、自分の身の上を明かす。


「〈ハッピーハック〉の〈スター〉です。……ここで、〈サニー〉と〈エア〉が出会ったって聞きました。けど、〈エア〉の行方がわからなくなって、〈サニー〉は彼女を探すと行って昨日手がかりを見つけて出ていきました。……たしか、昨日、店長室に忍び込んだ人がいたって……」


「──なるほど、あれは君たちの差し金だったわけか。〈ハッピーハック〉のことはよく知っているさ。先導さんとあの子がこの場所で縁を作るとは想像していなかったが。だが、残念だけど、君たちの要望には答えられない。こちらにも、従業員の個人情報を守る義務があるからね」


 店長らしき人は店の奥へと向かおうとした。もう話をすることはないという態度だったので、ノアは彼の前へ回り込み膝をついた。


「お、おい」


「お願いしますっ。〈サニー〉は〈エア〉の名前をしってから飛び出していきました。それはどうしてか、教えて下さい。じゃないと、本当にみんなばらばらになるんです……」


「そんなことを言われてもな」


 当然の対応だとノアは思った。そこでアキが冷静な口調でこういい始める。


「これ、見ましたか。先日、わたしたちの家がこんなふうになりました」


 アキは古い端末に表示した映像をオーナーにみせた。家の前でノアがでてきて集団に質問攻めされている場面と、そのあと煙が吹き始めた場面を切り取られた映像が流れていた。オーナーは目を丸くした。


「……映っていたの、ハルくんと君たちかい?」


「つい昨日のことです。いまは知り合いの家に避難しています。学校へ行ったところでいじめられてしまうだけ。わたしたち、姉さんと〈エア〉さんをみつけるしかやることがないんです」


「だったら警察に言ったほうがいいだろう……?」


「残念ですが、まともな捜査はされません。大手の事務所とつながりのある人達が、この映像を作って、わたしたちを追い立てたんですから」


 彼は先導家の事情を知っている立場なのだろう。両親がおらず、アイドルをやる前はハルがこの場所で稼ぎを手にしていた。もしかしたら借金返済のことまで訊いている可能性もあった。


「だが、残念だが教えることは出来ない。──代わりといっては何だが」


 オーナーはヒントを与えた。〈サニー〉と〈エア〉に一歩だけ近づけた気がした。二人はオーナーに礼を言い、レストランを後にした。

 別の車に乗り込み、ある場所の前で張り込みを開始する。中学や高校と違って、その学生たちは気まぐれな場合が多く、講義に出席しなくても平気なことがある。大学のことを何も知らないノアたちは、愚直に待つしかなかった。そして正午に差し掛かる頃、獲物がやってきた。今度はノア一人で降り立ち、彼女の前に立ちふさがった。帽子を外すと、彼女は目を丸くしていた。


「宮藤カゲツさん、ですね。〈ハッピーハック〉が貴方を迎えに来ました。お時間、いいですか」


「は、はい……。こんな早くお迎え来るなんて、こりゃ講義なんて後回しに決まってるわ!!」


 と、ハイテンションになってカゲツはノアに抱きついた。彼女こそが、先導ハルに店長室へ乗り込んで〈エア〉の本名を探った張本人であり、お世話になった先輩とのことだ。


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