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Traveling! 〜旅するアイドル〜  作者: 有宮 宥
【Ⅰ部】第三章 偶像の再定義
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情報統制


 寮長に自分たちが「監視」ではなく「撮影」されていると推測をぶつけた後、彼女はこう語った。


「一回、ネットで旅するアイドルについて調べてみなさい」

 一回どころか、何回も検索をかけている。ユキナを探すためにワードを打ち込んでいたからだ。

「ニュースサイトだけじゃなくて、SNSや動画サイトのほうがわかりやすい。まあ一部の人は困っているかも。あなた達を取り上げてお金稼いでいる人もいると聞くし」


 そうしてミソラは、どうしてこの違和感に気づけなかったのかを思い知ることになる。

 ホットな話題はやはり先日のサヌールの一件だ。清濁混じった意見がSNSや動画サイト、著名人のコンテンツで議論されている。それは今までと変わりない。

 八月に入ってからサヌールは新たな体制で運営されることになった。それは宗主国の日本が脱退し、シンガポールが参画を連ねたというニュースだ。旅するアイドルも少なからず関連していると思い、最新のトピックに表示を切り替えた。


「……おかしい」

 SNSの投稿は影響力の大きいものなら、少なからず個人の投稿があるものだ。自惚れではなく、旅するアイドルもそんな枠に収まっているはずだ。


「私たちのトピック、七月三十一日でピタリと止まってる」

「はあ? お前、さんざんユキナの検索してただろ」

「ええ。私は現地……ドイツの情報を中心に探っていたの。日本でユキナさんが行方不明という記事が出たのはつい最近。日本言語で情報探っても意味ないでしょ──だから、」


 見るべきものを見誤った。ミソラはドイツ現地の情報ばかりに目を向けて、日本での情報を無意識に除外していた。最近、やっと報じたかというくらいの認識でいたからこそ、日本での異常性に気付くことができなかった。そして決定的なものをミソラは見つけた。


「エゴサーチなんて今まで興味なかったけど、"旅するアイドル"とか”宗蓮寺ミソラ”で検索をかけてみたわ。……これ、世間を揺るがせた不正に対する反応とは思えない」


 七月三十一日の投稿以前は、あらゆるユーザーの意見やユーザーの意見が連日投稿されていたことがわかる。清濁合わせた意見が散見されているが、それが八月一日を最期にぱったりと途絶えていた。


「……これ、おかしいだろ」



「やはり、そんなことになっていたんですね。……生徒たちが噂してました。SNSやブログ、動画で旅するアイドルに関するコメントを残すと、すぐに消されてしまうと。──しかもまたアイドル関連、ですか」

「……寮長さん、〈ハッピーハック〉のことを?」

「もちろん。ずっと応援してたし、世界的にも有名だから」


 同じような事態は過去に行われている。〈ハッピーハック〉の〈エア〉が被害を被ったあの事件がネット上から姿を消したのと同じだった。その事態の首謀者はミソラの姉と兄である宗蓮寺麗奈と宗蓮寺志度だ。

 あれは二人が初めてエゴイスティックな動機で権力を振りかざした例だった。ミソラはそのことについては感謝しかない。そのせいで、宗蓮寺グループが世界中の情報を掌握しているとまことしやかに囁かれるようになってしまった。


 ミソラは情報統制という単語を打ち込み、各種SNSを眺めた。不思議と情報が規制されていることは消されずに残っている。各種ニュースサイトも取り上げているが、「旅するアイドル」と関連するようなワードはなかった。それを示唆するものもない。例えば「アイドルグループ」や「旅人」といったものもなかった。


「……宗蓮寺グループがまたそういうことを?」


 寮長はそれ以上の想像をしたくなかったのか、それきり黙りこくってしまった。


「とんでもねえ企業だな。べつに世界一の企業ってわけでもねえのに、ネット上の情報を掌握してやがる。運営会社、宗蓮寺グループに脅されでもしてんのか?」


 情報統制そのものについての発言は許されている。〈ハッピーハック〉の情報がネット上から消された出来事と比べると、いささか規模は小さい。

 ミソラは今まで手にした情報を組み合わせ、結論を導こうとした。大量の監視カメラに一部の場所にある集音器、これらはどんな事実を指し示しているのだ。一部生徒の発言に、「あんなの聞いてない」というものがあった。襲撃のことを言っていると思うが、別に意味合いにも聞こえる。その他の学園内に蔓延る異様な光景を理解していると。つまり監視カメラが設置されている意味や、集音器の存在を認知している可能性がある。

 もう一つだけある。学園周囲の異様な静けさだ。それが顕著だったのが夜中二十三時を回っても、住宅に人気の気配はなかったことだ。ミソラが敵に向かって雄叫びを上げたのは、住人に異常を感知してもらうためだ。そのほうが手っ取り早いと思ったからだ。なのに、人一人現れることなく、照明すらなかった

 それらが何を導き出すのか。想像を遥かに超えた異常事態がいま学園に起きているとしか考えられない。

 ミソラたちは考察の場所を移した。全ての事態を知っているもの、この学園の長に。





「特別課外活動は学園にもとからあったシステムですが、それを大幅にアレンジを加え、旅するアイドルを撮影するための箱庭としたんですね」


 決まった時間に決まったことをする。撮影者としてこれほど楽なことはない。日常の一幕を撮影し、なんらかの目的に活用されていけばいい。


「世界観の作りぶりは徹底的ですよね。周囲のどれくらいかわかりませんが、住宅に人の気配がまったくない。さすがに元から住人はいたんでしょうが、莫大な費用をかけてしばらく別の場所に滞在するように『お願い』をしたのでしょう。地上げ屋も驚きの手法です」


 学園周囲はほとんど一軒家が建っている。概ね家族連れで占めているはずで、どこかのホテルに無料で滞在、または長期旅行の提案でもすれば喜んで乗っかってくる家庭もあるはずだ。


「本当に、ハルさんのやり方は大胆すぎて困っちゃったわ。けど、見事にやり遂げてしまった。この辺りは家族連れが多いのだけど、とびきり裕福というわけじゃないのよ。たまの贅沢はあるけど、東京に住んでいる以上は贅沢の質も一定上のものを望んでしまう。ハルさんはその性質を見事に利用してみせた」

「反発もあったはずです。全員が全員飲むわけじゃない」


 桜川は首を振って、ハルさんはと前置きした。

「頑なに聞かなかった人には彼女自らで向いたわ。近隣住人の仕込みは、カメラの設置前から行ってたわね。……やり方は聞いてないけど、近隣住人の夏休みだけの退去を例外なく成功させたもの」

「マジか、金でも積まれたのか?」


 それもあるだろう。無条件で報酬を渡したわけではなく、ある場所で一定期間の滞在、またはイベントの参加という条件をちらつかせて、それに従った場合は別途で報酬を支払うというものを提示した。自宅から離れる事以外のデメリットはない。出ていけば快適な場所で夏が過ごせるし、帰宅した後も報酬が支払われる。ただそれに伴うのは、絶対的権力者に怖気づいた実績と、今後おなじようなことがあるかもしれないという恐怖だ。


「情報統制の加えて、近隣住人の操作。さすがに宗蓮寺グループだけの所業とは思えない。日本の、いいえ世界中のあらゆる企業がこの撮影に参加しているはずよ。……そこまでして、あの子は」


 彼女の姿が一瞬ちらつく。その後ろには顔も知らない協力者が何万単位で関わっているに違いない。


「先導ハルは何を企んでいるの?」


 桜川は盛大に溜息をついて背中の椅子に寄りかかった。それはこちらが聞きたいと、諦念めいた様子だった。ミソラの語気が荒げていく。


「あの子は、ノアを危険な目に合わせた。その他の人だって。けが人だって出ている。……これを、容認しろなんて巫山戯た話よ」


 それから立ち上がって、扉の方へ向かう。


「ハルのもとへ向かうわ。あとは──」


 突如として扉が開いた。ミソラが振り向いた瞬間、中へ入ってきた者が続けた。


「全部ぶっ壊す、とでも言うわけ? まあ、こうして赴いてあげたんだから、どうぞ好きなように」


 この状況を見越したように現れたのは、一連事態を仕組んだ黒幕である先導ハルだった。ミソラたちを見つめる眩い目は翳りがなく、むしろ一層際立っていた。


「──てめぇ」


 アイカがハルに掴みかかり、そのまま羽交い締めにした。アイカの四肢がハルに巻き付き、四肢を破壊せんと力を込めていった。


「見事な、体術ね……でも、また力で解決するつもり?」

 ハルの言葉にアイカが瞠目するも、続けて力を込めていった。

「お前らがアタシらを閉じ込めたんだろうが!」

「誘いの乗ったのはあなた達。長野の件で怖気づいてなかったら、ここへ来ることはなかった」

「口を開けばべらべらと!」

「アイカさん!」


 ミソラはぴしゃりと言い放つ。アイカが不可解そうに眉をひそめた。

「こいつは人のことをただの道具としかみてねえ。昨日何が起きたのか忘れたのか!」

「あれはハルの仕業じゃない。……お願い、まずは話をさせて」


 懸命の訴えが届いたのか、アイカが技を解いた。舌打ちしてミソラの方へ向かい、悔しげない態度をみせた。ミソラはハルに向かってから、敵意を隠すこと無く話を始めた。


「先日の一件は恐らく金城一経きんじょういっけいの仕業でしょ」

「そう思う根拠は?」

「敵は誰かに雇われているって聞いた。最初はハルが雇ったのだと思ったけど、ノアがいる手前でそんなことをするとは思えない。残るはフィクサーのうちのどちらか。長野の邸宅を襲ったフィクサーならあんな中途半端な連中を使ったりはしないはず。だから消去法で私達に恨みを持ち、現在進行系で撮影が続いている私にたちに、矛先が向くと思ったのよ」


 ハルは胸の前で手を一つたたき、「おみごと」と口にした。

「少ない情報でよく導き出した。先日の一件も金城一経の八つ当たり。また彼は失敗してしまったのね」

 また、と口にしたハルの言葉を聞き逃さなかった。


「ユキナさんの件が失敗した? 逃げられただけではなかったの」

「あらつい。どうにも私も興奮の収まっていなくてね。──まずはお二人に最大限の感謝を。ノアを、みなさまを守ってくださってありがとう」


 ハルは頭を下げた。それが謝罪の意味を込めたものだと理解するには十分だった。恐らくミソラたちが戻っていなければ、凄惨な状況になっていた。それは間違いようのないことだ。ハルは顔を上げてから真面目な顔でいった。


「だからたどり着いたお二人には、私が知りうることを全て話そうと思ったわけです。学園長、しばらくここでお話をしても?」

「構いません。私はしばらく席を外しますから」


 そう言って桜川は椅子から立ちあがった。ミソラとアイカを名残惜しそうな一瞥送ってから、部屋の外へ出ていった。それからハルは窓側のソファへ腰を落ち着けた。


「学園長にもしばらく休暇を与えたほうがいいかもしれません。今回の一件で一番反発があったのは、学園の教師たちでしたから」

「姉さんたちの恩義を不意にしたからよ」

「ここ以外の舞台が思いつかなかったのよ。急ピッチでなければ、確実性のある方法を選べたのに」


 ハルは視線だけでミソラたちに座るように促してきた。渋々腰を落ち着かせると、目の前から受ける圧力に胸がざわつく。


「さて、あなた達から聞きたいことに答えていくけど、質問は?」

「さっきの金城一経が失敗したことについて教えて。一つは私達を襲ったときでしょうけど、もう一つは何?」

「それですか。元々金城一経はドイツに刺客を差し向けました。原ユキナを亡きものにするために」

「日本でもニュースになったのはようやくのことだった。だけど、「旅するアイドル」というワードを使うと消されてしまうらしいわ」

「ええ。ですから各ニュース記事には『原ユキナ』という邦人女性の行方がわからなくなったことしか記載されていません。日本での報道が遅れたのはそれが理由ですね。で、肝心なのはユキナさんの行方が分からなくなった理由とその顛末。結論から言えば」


 間を開けて丁寧な口調で言い放った。

「ユキナさんはすでにドイツにはいません。そして金城の魔の手から脱しました」


 思わぬニュースにミソラとアイカの吐息が勝手に出てきた。ほっと一安心してしまった隙を作ってしまった。

「いずれ日本へ戻ってくるようです。いつになるかわかりませんが」


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