立っているだけのステージ
少女は出番を待っていた。
ステージの裏で、虚ろな面持ちで出番を待ち続けている。
ここは神奈川県海老名市のショッピングモールの外部ステージで、GW祭りと称したイベントが開催中だ。約二時間程度の催しには多様なゲストがパフォーマンスで盛り上げていき、あと数分で最後のステージが幕を開けようとしている。
「……なんで、こうなったのかしら」
ステージ裏で出番を待っているときの独特の緊張感で憂鬱な気分になる。ここに来るまで順番はどうでもいいと思っていた。果たすべき努めには支障はない。目的はただひとつ。宗蓮寺ミソラがステージに立つ、ただそれだけだ。
ステージに上がっても、ミソラのやることはない。ただそこにいるだけで役目は果たしている。
しかし、だからといって衣装まで凝る必要はないと思った。ミソラが着ているものは、アイドルみたいな衣装だった。
「私が、アイドルだなんて……。もう二度とないと思っていたのに」
自嘲気味にミソラはつぶやいた。元々、別のアイドルがこのステージのトリを任されていたらしいが、急用で参加ができなくなったところミソラがねじ込まれたという経緯がある。なによりここへ来るまでに色々なことがありすぎた。
まず、家が燃えた。多分、燃やされた。それから仮面を付けた謎の人に助けられた。
次にキャンピングカーの中で目覚めて三人の女性と出会った。そのうち二人は、ミソラより年下で平日に学校へ通っていてもおかしくない少女たちだった。
色んな所を巡った。あの家で襲撃にあった理由が知りたかったし、元の生活に戻りたかった。なにより、宗蓮寺ミソラのかけがえのない”大切なもの”を失ってしまっている。
けど待っているだけで状況は何も変わらなかった。だからここにいる。
「宗蓮寺ミソラさん。スタンバイのほうお願いできますか?」
突如入りこんできた声で、ミソラは思考の宇宙から現実へ戻った。すぐそばにイベントのスタッフらしき人が立っていた。控室から舞台袖まで移動し、ステージ上の盛り上がりが体の奥底まで響いてきた。マジシャンだったようで、ちょうど大量の白鳩が客席の上空を飛んでいくのが見えた。ミソラは白鳩たちの行く先を考えた。マジシャンが用意した鳩は、そのまま大空を自由に旅するのだろうか。その思考に陥ったとき、ミソラはふと”自由”という言葉を思い浮かべた。あの鳩たちは、結局飼い主であるマジシャンの元に戻るのだろう。
「……帰りたい」
家族と平穏に暮らせていただけでミソラは幸せだった。なのに、なぜだか奪われた。
「姉さん、兄さん──どこにいるの」
『さて、次が最後の演目となります! 急遽参戦する運びとなった新気鋭のパフォーマーの登場。あの宗蓮寺の名を冠した逸材。果たしてこのステージにどんな化学反応を起こすのでしょうか。それでは宗蓮寺ミソラさんの登場です!!』
MCを務めている女性の大々的なアナウンスとともに、ミソラは舞台袖から歩いていった。まばらな拍手が起こる。歓迎しているわけではなく、義務的に拍手を送っているだけだった。
真昼間の日差しが観客を照らす。対してステージ側は設営部分が影になっていて光が届かない。本来なら照明が付いて演者を照らすのだが、一向に光が灯ることはなかった。そのことは事前にスタッフに通達していた。このステージで
人には決められた人生がある。
生きるために、輝くために、そして誰かを幸せにするために。
しかし、このステージで人の心が動くことはない。
これは ”ただ存在を示す”だけのステージ。
宗蓮寺ミソラが生きていることを、敵に知らしめるためのパフォーマンスなのだから。
そして反逆の旅人の物語だ。