ポテトチップス
ポテトチップスを食むと、夜を噛み砕く音がする。一枚、二枚と手が伸びて、ぱきぱきと割り入れれば、床には街灯の曇った光がぼんやりと揺れ、野良猫のしゃがれた鳴き声が響いてくる。この一枚は塩をまぶしたような星空で、ざくざくと細かく咀嚼すると、欠片は喉を突っ掛えながらも通っていった。お行儀悪く指をなめとればわたしはすっかり空しくなって、銀色に光るポテトチップスの袋の内側を覗きこむ。からっぽのそこはてらてらと油のあとが残っていて、内側の銀色を艶やかに輝かせていた。たぶんそこにはさみしくはなかった満杯の夜があったのだけれど、わたしはひとつ残らず食べてしまって、後悔の念に駆られるものの、今一つ白々しい。小気味の良い音を立ててみても、誰にも気付かれない夜をわたしだけが知っていて、それが最初でも最後でもないから、わたしは次の夜もまたポテトチップスを開ける。噛み砕くことはいとも簡単で、この夜を耐えきれないほど柔でもない。ただ、耐えられることが耐えきれないのだ。だからわたしはポテトチップスを放り込み、躊躇いなどないように食んでみせる。これからの夜を、これまでの夜を、何度も、何度でも。




