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目覚め
壁掛け時計の秒針が
文字盤の上を
お行儀よく滑る
窓に打ち付けた
水音の重なりで
雨の降り落ちるのを知る
テーブルに置かれた
珈琲の湯気は
次第に薄くなり
のせられた
掌の感触で
視線は
あなたの腕、そして
あなたの顔へと辿り
あなたが
ひっそりと
吐き出した息に
重ねられた言葉は
聞きなれたトーン
私の耳を通り抜け
日常に埋没するような
会話をひとしきり
訪れた
沈黙すらも降り積もり
ぼやけた視界が
掛けたレンズを通して
くっきりと
焦点を取り戻す
捲った本の頁
スッと切れた指先から
垂れた鮮やかな血が
わずかな距離を経て
真白の紙に滲む
その時
──その瞬間
平坦な夢から
突如覚め
俯いた顔を上げれば
幾重にも
レイヤードされた
世界の厚さに
驚いたりする