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八月の影
堤防に
立て掛けられた
朽ちかけた梯子
つたって
浜辺に出れば
乾いた砂浜に
腰を下ろし
海ばかり
みていた
いくつもの夏の日に
何気ない
語らいが好きだった
白波の立つのを
数えながら
やどかりの歩幅
砂を掻き分け
足跡もつけず
突き進むのを
見つめている
少しずつ
夏は終わって
雲の形が変わって
頬に感じる
日射しの熱は
優しくなって──
毎年の
毎年のことだと
思っていた
それなのに
朽ち落ちた梯子
日々はつづきながら
様を変え
鈍る足と
透明な防波堤
越えることもできず
窓越しの空に吐く
ため息
かなしいくらいに青い
だから──
わたしは──
いつか
拾いに
拾いに行かなければ
なりません
下り坂の向こう
フロントガラスの遠く
待ちわびる水平線
夏をとりこぼした
砂浜に
わたしの影が
ひっそりと
淡く佇んでいるのです