夢の話
**理不尽な秩序のある世界**
──夢、あるいは繰り返されるイメージ
晴れた日、牧歌的な風景、原っぱ。
小川には木製の小さな橋が架かっていて、そこを渡れば背の高い木々に覆われた森が広がっている。
私はその橋を渡らなければいけないし、その森に入らなければならない。選択肢など存在しないかのように、私は歩をひたすら進める。
森の奥深くまで進むと、ぽっかりと開けた場所が急に現れ、古びた三階建て(時に四階建てだったり二階建てだったりする)の洋館がひっそりとある。
レンガ造りのそれは所々蔦の這う、おどろおどろしい佇まいなのに、纏う雰囲気は至って乾いているので、不思議と怖くはない。
洋館の上階の窓からは近付く度にだんだん視線を強く感じる。どの窓かはいつも分かる。だけれど、どの階なのかはいつも曖昧だ。
そうして辿り着いた洋館の玄関口である鉄製の重い扉に、鍵など掛かっていないことを私は当然のように知っており、耳障りな音を立てる扉をゆっくりと開ける。
埃がちらちらと舞う館の中は、薄暗く静かだ。正面すぐに急な階段があって、館の大きさに似合わず幅は狭く手摺すらない。
私の足は迷いなくその階段を上り(二階、三階と差し掛っても廊下は見当たらない)、一つの部屋のドアの前で止まる。この階段はこの部屋の前にしか行き着かないのだ。
そのドアは材質も大きさも装飾もなにもかも違うのに、私が幼少期暮らしていた家の寝室のドアと似ていて、そのドアの前で私はさもすれば懐かしさすら感じている。
ドアは開けない。開けなくても、開けたあとの光景が見えるのだ。
薄い埃に覆われた床。大きな窓硝子はすっかり曇って、外からの陽光が和らいだ白い光になって射し込む。窓辺には枯草色(ワインレッドだったり銀色だったりもする)の天鵞絨のドレスを着たドールが窓の外を眺めるように斜めに座っていて、くるくると巻かれた髪の間から硬質な横顔が見える。
その表情には怒りも悲しみも見当たらずただただ退屈そうだ。
そのドールは百年もの間、窓辺から外を眺め続けている。ドールが直接そう話したのではない。ただ、そうなのだ。
そして、私は急に気付く。次は私の番だ。どうして忘れていたのだろう、知っていたはずなのに。私はドールの姿になり、ただ来る日も来る日も窓の外を眺めている。
百年の間待ち続けるのだ。森の向こうから、私が訪れるのを。




