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scrapbook 2021  作者: a i o
20/32

夢の話

**理不尽な秩序のある世界**

 ──夢、あるいは繰り返されるイメージ



 晴れた日、牧歌的な風景、原っぱ。

 小川には木製の小さな橋が架かっていて、そこを渡れば背の高い木々に覆われた森が広がっている。

 私はその橋を渡らなければいけないし、その森に入らなければならない。選択肢など存在しないかのように、私は歩をひたすら進める。

 森の奥深くまで進むと、ぽっかりと開けた場所が急に現れ、古びた三階建て(時に四階建てだったり二階建てだったりする)の洋館がひっそりとある。

 レンガ造りのそれは所々蔦の這う、おどろおどろしい佇まいなのに、纏う雰囲気は至って乾いているので、不思議と怖くはない。

 洋館の上階の窓からは近付く度にだんだん視線を強く感じる。どの窓かはいつも分かる。だけれど、どの階なのかはいつも曖昧だ。

 そうして辿り着いた洋館の玄関口である鉄製の重い扉に、鍵など掛かっていないことを私は当然のように知っており、耳障りな音を立てる扉をゆっくりと開ける。

 埃がちらちらと舞う館の中は、薄暗く静かだ。正面すぐに急な階段があって、館の大きさに似合わず幅は狭く手摺すらない。

 私の足は迷いなくその階段を上り(二階、三階と差し掛っても廊下は見当たらない)、一つの部屋のドアの前で止まる。この階段はこの部屋の前にしか行き着かないのだ。

 そのドアは材質も大きさも装飾もなにもかも違うのに、私が幼少期暮らしていた家の寝室のドアと似ていて、そのドアの前で私はさもすれば懐かしさすら感じている。

 ドアは開けない。開けなくても、開けたあとの光景が見えるのだ。

 薄い埃に覆われた床。大きな窓硝子はすっかり曇って、外からの陽光が和らいだ白い光になって射し込む。窓辺には枯草色(ワインレッドだったり銀色だったりもする)の天鵞絨(ビロード)のドレスを着たドールが窓の外を眺めるように斜めに座っていて、くるくると巻かれた髪の間から硬質な横顔が見える。

 その表情には怒りも悲しみも見当たらずただただ退屈そうだ。

 そのドールは百年もの間、窓辺から外を眺め続けている。ドールが直接そう話したのではない。ただ、()()()()()

 そして、私は急に気付く。次は私の番だ。どうして忘れていたのだろう、知っていたはずなのに。私はドールの姿になり、ただ来る日も来る日も窓の外を眺めている。

 百年の間待ち続けるのだ。森の向こうから、()()訪れるのを。

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