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四月
四月。
寒緋桜はすっかり葉が生い茂り、晴れた日の日射しの熱が増していく。
環境の変化に戸惑い、そのスピードに目がまわっている私の外で、溌剌と明るい景色がある。
ふと、窓の外を見ると雲一つない青空に、木漏れ日を降らす木々が揺れている。
ああ、そうだった。
四月は美しい季節だった。
瑞々しいその空気に、憂いなく放たれた陽光に、弾みをつけたくなる。
慌ただしさにばかり目が行くけれど、見逃すには惜しい、慎ましやかな明るさがここにはある。
乱暴なのに静かな春と、青い初夏の間。
立ち位置も曖昧な、四月が揺れている。