天使の名前
遠い遠い国の小さな町。
もうクリスマスも近い寒い日だった。
小さな少年ミロルは病気のお母さんと2人暮らし。
お父さんは、お母さんの薬代を稼ぐために遠くの大きな町に長いこと泊まり込みで働きに出ていた。
もうすぐクリスマス、ミロルはお母さんのクリスマスプレゼントを選びに買い物にきていた。
あまりお金はないから高い物は買えない。
ミロルは歩き回って、露天で売っていた手袋を見つける。
赤い手編みの手袋。
ちょっと不格好なところもあるけど、お母さんの好きな赤色だった。
「これください」とミロルは、店番の女の子に声をかける。
「これ買って貰えるんですか。初めて習って作ってみたんだけど、うまくいかなかったから売れ残るかなと思ってたんです。嬉しい、ありがとうございます」
店番をしていた女の子は笑ってくれた。
プレゼント用に包装してもらった手袋を大事に抱えて家に向かう。
その途中、ミロルは何か困っている様子の小さな女の子を見かける。
女の子はミロルより少し年下のようだったし、声をかけてみることにした。
「どうしたの、こんなところで」
「私、探し物があったんだけど、それを忘れちゃったの」
「探し物を忘れてしまったんだ。それは大変だね」
そう言いながら、困ったなとミロルは思う。
何を探しているのかわかれば、人に聞いたりもできるけど、それも忘れてるとすれば探しようがない。
女の子は町にもなれている感じではなく、周りをキョロキョロとしていた。
「僕が一緒に町をまわってあげるよ。そうすれば、何か思い出せるかもしれないよ」
「いいの?」
「困ったときはお互い様だよ」
「ありがとう」
「僕はミロル、よろしくね」
「私は……チロル、よろしく」
「僕たちの名前、何か似てるね」
「そうね」
ミロルとチロルは顔を見合わせて笑い合った。
町を巡り始める。
パン屋さん、服屋さん、道具屋さん。
他にも色々まわったけど、チロルが忘れ物を思い出すことはなかった。
「もう日も沈むし、そろそろ帰らないと」
「ミロル、ありがとう。こんな時間まで私に付き合ってくれて」
探し物は見つからなかったけど、チロルは本当に嬉しそうにミロルの手を握ってくれた。
「冷たっ」チロルの手のあまりの冷たさにびっくりするミロル。
「チロル、これを使って」
「これって、手袋?」
それはミロルのお母さん用にと買った手編みの手袋だった。
「いいの? これって誰かにプレゼントするためのものだったんじゃ」
「いいんだ、お母さんにはまた別な物を用意するし。僕がチロルにそうしてあげたいって思ったんだ」
「本当にいいの?」
「うん」
ミロルが元気一杯に笑いながら頷くと、チロルは大事そうに手編みの手袋を抱える。
「大事にするね」
そう言ってチロルも微笑む。
そうして、ミロルとチロルは別れた。
その日あった出来事をお母さんに報告しようと、急いで家に向かうミロル。
家のドアを開けると、奥のほうで苦しそうな声が聞こえる。
「お母さんっ!?」
お母さんがベッドの上で苦しんでいた。
息も荒く普通じゃない。
ミロルが必死に呼ぶけど、聞こえていないようだった。
「お母さんが死んじゃう」、そう思い慌てるミロル。
誰か助けて、そう思ったとき後ろから声がした。
「ここだったのね」
振り向くと、そこには見知った顔の女の子がいた。
「なんで、チロルがここにいるの?」
いきなりの再会にそんなことを言ってしまう。
「私の探し物を思い出したの」
「何を言っているの?」
「私の探し物は、ミロルのお母さんだったの」
そう言うと、チロルの背中から真っ白な羽が生えて天使のような姿になった。
チロルの背中から羽が生えて、さらに混乱するミロル。
だけど、チロルの探し物がミロルのお母さんであるなら、このままだと死んで連れていかれてしまう。
それだけはわかった。
「お願いします。お母さんを連れていくのをやめてください」
「いいよ」
あまりの呆気ない返事に逆に驚くミロル。
「いいの?」
「だって、お母さんはミロルの大事なものなんでしょ。私はもうミロルの大事なものを貰っちゃったし、これ以上、ミロルから貰うのは悪いもん」
そう言って、チロルは自分の両手に着けた手袋を見せる。
それは、ミロルがチロルにあげた手編みの手袋だった。
「そんなものでいいの?」
「この手袋には、これを作った女の子の一生懸命な気持ちやミロルのお母さんへの優しい気持ちが、いっぱい詰まっていたよ。だから私も力を取り戻して、探し物を思い出すことが出来たんだし」
「チロルは大丈夫なの、そんな勝手なことして消えちゃったりとかしないの?」
「う~ん、神様には怒られちゃうかもね。罰くらいは受けるかも。でも、私がミロルにそうしてあげたいって思ったんだ」
チロルが笑いながら、そう口にする。
ミロルには、チロルが受ける罰がどんな内容であるかはわからないけど、お母さんを助けてくれるなら嬉しかった。
「私からのクリスマスプレゼント、大事にしてね」
それだけ言い残すと、チロルは窓から空に飛んでいってしまった。
少しして、ミロルのお母さんが目覚めると、不思議なことが起こっていた。
「お母さん、動いて大丈夫なの」
「ええ、体調も良くって、なんだか今まで苦しんでいたのが嘘みたい。お母さん、夢の中で天使様をみたような気がするの。ひょっとして、天使様が治してくれたのかしら。おいで、ミロル。今までいっぱい我慢していっぱい頑張ってくれて、本当にありがとう」
ミロルは泣いた。
お母さんに甘えながら、わんわん泣いた。
お母さんが良くなってから、しばらくしてお父さんも大きな町から戻ってきてくれた。
次の年にミロルに妹が生まれる。
「可愛いな、まるで天使のようだ」
「本当に」
両親の幸せそうな顔。
それを見ているとミロルも幸せになった。
「ミロル、お前の妹の名前はどうしようか」
そう聞かれたので、ミロルは天使のような生まれて間もない妹の名前を考える。
でも、思い付いた名前は1つだけ。
ミロルはその思い付いた名前を両親に伝える。
「チロルって、どうかな。僕の知り合いの天使の女の子の名前なんだ」
作者的には綺麗な話や面白い話が大好物なので、今回は優しい良い子が素直に報われるような内容でした。
絵本のような感じにしたかったんで、細かい描写もなく書いてます。
まあ、苦手ってこともあるんですが
( ̄▽ ̄;)
普段はファンタジーをチョロチョロ書いてます。
全然作風は違うかもですが、ちょっとでもクスリと笑ってもらえたらと書いてます。
良ければそちらも覗きにきてください。
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