第二章 未来のない活動内容
第二章 未来のない活動内容
「部活動の一環で撮影って言ってたから、僕に部活動に参加してほしいってことだったのかな。
それにしても、部活の方針、それどころか名前すら教えてもらってないよね、僕。
これから、どうすればいいんだろう。」
部室を後にして、僕は今の不安定な状況に戸惑い葛藤していた。
「とりあえず、状況をいったん整理するためにも
ファミレスのドリンクバーでも頼んで考えてみようかな。」
僕は、いったん帰り道にある駅前の某ファミリーレストランに入ることにした。
「いらっしゃいませ。」
席について、今までの出来事を振り返り今後の自分の行動について考える。
もし僕がこの部活動に携わるとして、まずどのような活動を行っているのかが不明瞭だった。
そういえば、突拍子もないセッティングだったし。
きっと僕をからかうためだけに準備したものだと思うけど。本当は何をしているんだろう。
次に、その部活動に対してモチベーションを維持できるのか。
まぁ、活動内容がわかっていない以上モチベーションうんぬんは分からないね。
最後に、僕を勧誘する目的はなんだろう。変態扱いされているのに、勧誘されてるって矛盾してる。
弱みを握ったからいいように使いたいってだけなのだろうか。何もわからない。
しかし考えを巡らせなくても、わかっていることが一つだけあった。
この部活動に関わったら最後、僕に輝かしい未来などみじんもなく
称号とは無縁の生活になるだろうってこと。
「さすれば称号与えられん。でも今の僕の行動、到底称号を授かるような行動をしていないよね。
下校途中にファミレスって。着実に称号から遠ざかっていってる。」
僕の言葉はむなしく消えていった。
◇
昨日の不可解な事件が身体に残っているからか今日は朝から少しけだるげだ。
それに今日は朝から全校集会がある日だった。それもあってかだるさが助長される気がした。
長い校長先生のお話が終わり、次は部活動の表彰式があるはずだった。
それにしても、表彰式だけの割には周りが騒がしい。
壇上を見ると、昨日口論にまで発展してしまった二階堂さんがいた。
まだ何が始まるのかわからないはずなのに、嫌な予感が押し寄せ自然と頭が痛くなる。
「今日は、私たちの活動に不備があったため壇上に上がらせてもらった。
私は、同人部(仮)に所属している二階堂流依だ。以後、お見知りおきを。」
二階堂さんが優雅にお辞儀をし、いつもとは違う筋書きに一同騒然となる。
「皆から注目を浴びている同人部だから、皆さんが騒然とするのも無理はない。
ざっと経緯を説明させていただく。現在、私たちの部活には今はこの場にいないが部長の藤花礼愛、
先ほど名乗った副部長の私こと二階堂流依、隣にいる綾瀬夢叶と名もなき凡人が一名
いや通りすがりの勇者が一名所属している。」
「誰だよ、通りすがりの勇者って。」
全校生徒の中からヤジが飛んでくる。
(僕のことだ…。)
急に自分の不名誉な称号を呼ばれ恥ずかしくなって、僕は赤面した。
「通りすがりの勇者の本名は不明だが、実在するとだけは言っておこう。」
僕は、何を言い出すかわからない恐怖から本格的に頭が痛くなっていた。
「部へ昇格するためには人数が足りないことと私たちの活動内容が特殊であることは、
重々承知している。しかし、個性を尊重し伸ばすためにも
我々の活動内容は認められるべきではなかろうか。
そして、先日から故障している空調機のせいで
私たちのあふれ出る想像力が干からびようとしている。
若きものの知への探求心を損なわないためにも早急に環境を整える必要があるだろう。
このままだと、教育委員会とPTAが黙っていないと思うが。」
二階堂さんが余裕の表情を浮かべ、
まるで学校サイドを追い詰めているかのように御託を並べている。
「その件については、もう解決しています。
人数は足りませんが、活動が特殊ということで私たちが監視するためにも
同人部は部活動と認められ同好会から部へと昇格しております。
それと、空調機についても本日校舎の管理人の方が修繕しに来られるはずです。
少しの間、空調機がなくご不便をおかけして申し訳ありません。」
学校サイドはこの事態を予測していたのか二階堂さんの
一歩間違えれば悪質なクレーマーともなりかねないこの状況をそつなくかわし幕を閉じた。
「やっぱり、こんな緊急事態を藤花さんが放っておくはずはないですよね。」
切なげな表情で綾瀬さんがつぶやく。その顔は、藤花さんを求めてやまないようにも見えた。
◇
記憶はあまりないけど僕は学校が終わった途端新館に駆け出し、
気づけば同人部の部室の前にいた。
何でまたこの期にも及んで同人部と関わりたいのか自分でもわからない。
「先生、何でわかってくれないんですか。私のこの報われない行き場のない気持ちを。」
はっきりとはわからないけど、綾瀬さんが部屋の中で演技をしているような感じがする。
「あぁ、よく来たな新人。ただいまよりこの部の活動内容について説明する。
現実世界の設定を反映させながら演劇のシナリオを完成させ演技するというのが
この部の主な特徴だ。しかしイメージが行き過ぎで、
インスピレーションが現実を凌駕してしまうんだがな。
ちなみに、この演技は私たちの今朝の騒動が題材となっている。」
何でこの部活動を学校サイドが認めたくなかったのか今になって身に染みる。
ここまで携わってしまったからには、僕にも覚悟を決める時が来た。
「この部活動に入部させてください。」
「あぁ、お前はもう入部しているぞ。先生からも許可が下りている。」
かくして僕は否応なしに同人部に入部することになった。