第一章 これが出会いと言えるのか!?Part.2
第一章 これが出会いと言えるのか!?(後編)
「こんなのどうかね?」
見るとおばあさんの手には、戦隊もののミニフィギュアが握られている。
「男の子はいくつになってもこういうのが好きじゃろ?」
「んー?」
「お前さんぐらいの年の子が小さい子に交じって戦士ごっこをして楽しそうに遊んでるのをつい最近見かけたでの。」
(それ僕だ。)
周りの空気が少し凍った気がした。
(でも、僕と同い年の子が混ざっていない時点で僕の方が特殊だよね。)
と心の中で思う。そして、僕といえる勇気があるはずもなく
「大人って時々自分勝手に都合よく子ども扱いするよね。」
とぼやきながら、
「それなら、ゲームとか漫画の大人買いとかの方が喜びそうだよ。」
と切り返す。すると、
「それはちょっとな。」
とおばあさんが言いよどんだ。よく見るとおもちゃには、半額シールが貼られていた。お孫さんのプレゼントの意見を聞くのに、僕みたいなボランティアに聞くくらいだしもしかしてこのおばあさんお金ないのかも。
「ちょっと、3階に行ってもいいかな?」
「暮らしと人のフロアなんかに何の用だい?」
「ここ見てみて。」
そこは、言わずと知れた100円ショップだった。
「これはニュースになってたおしゃれなリール。僕と同い年ならパスケースにつけるのもありだし。このブック型のフック付収納ケースはSNSで流行ってるよ。スタイリッシュでかっこよくしまえるから男の子にもお勧めだよ。」
「お前さんよく知っとるの。」
「あ、それとこれ女性の間で流行ってる毛糸。毛糸が100円で買えるなんてお得なんだって。手作りの編み物をプレゼントしたりするらしいよ。」
「編み物できるが、思春期真っただ中の男の子じゃぞ。毛嫌いせんかね?」
「手作りって、心がこもってるからいくつになってもうれしいよ。」
「本当に、お前さん高校一年生かい?おばあさんからの手編みのセーターもらってうれしいかね。年頃の女の子からなら、話は別そうだが。」
「手作りのものは、どんな高級ブランド品にも勝る温かさを持ってるからね。僕が断言する。」
「あまり年頃のいろはをわかってなさそうなお前さんに、断言されてもね…。」
「大丈夫。年頃のいろはをわかってなくても人生のいろはをわかってるから。その時は分からなくても、大人になってから温かさに気づくことだってあるんだから。お孫さんのいい思い出になると思うよ。それに、手作りは作った人自身のかけがえのない思い出になるからね。」
「やっぱり、高校一年生とは疑わしいね。その達観したようなものの言いよう。経験がないと言えないものだが。」
「僕、いろいろ考えるのが昔から好きで想像力は人より秀でてるからね。いろいろなことを鑑みていってるから、毛糸で編んだセーターでもプレゼントするなんてどうかな?うれしいような困ったような恥ずかしいような今しか見れない思春期特有の顔が見え隠れするんじゃない。」
「そこまで言ってくれるなら、作ってみようかね。ついでに、お前さんの分もプレゼントしよう。さぼり癖のある私にぴったりな課題だよ。お前さんが待っていると思ったら、最後まで編めそうな気がするしね。できたら、送るからね。」
ふわふわな毛糸を買ってうれしそうに抱きしめながらおばあさんが背を向けて帰っていく。僕もその後姿を見送ったら家に帰るだけのはずだった。でも、その時いきなり失礼な言葉を投げかけられたんだ。
「やっぱり、あなたは老若男女問わず見境なしに手をかけていたんですね。これが動かぬ証拠です。」
見ると、綾瀬さんが携帯を持っていた。その画面には、『通りすがりの勇者』というタイトルで昨日の僕と子供たちの様子が写された動画がアップロードされている。そして、コメント欄には『子供たちを追いかけまわすなんて最低。』と書かれており、投稿するボタンの上にカーソルがあって今にもクリックされそうになっている。
「いたいけな子供たちを追いかけまわすなんて言語道断です。投稿した後通報しますよ。通報後、学校にこの正体を明かされたくなければ、明日新館二階応接室まで来ること。来なければ、直接連行しに行きます。突然の出来事に頭が真っ白になる。
「はぃ。」
否応なしにそう答えることしかできない僕をよそに、桜の花びらが舞い散っていた。
そして現在、連行事件に至る。
◇
「こちらです。」
いつの間にか僕は新館二階の応接室の前に立っていた。
「お邪魔します。」
「ようこそ。お前が百戦錬磨の人たらしか。」
(百戦錬磨の人たらし?ん、もしかして僕のことか?なんなんだよ、その不名誉な称号は。)
「何なの、君は。どうして僕をここに連行する必要があったの。」
問い詰めるような口調でそう言って、目の前の人を少し威嚇する。よく見ると、その人は水着姿だった。いつ着替えたのか隣の綾瀬さんもいつの間にか水着姿に着替えている。そして、その奥にはなにやらてらてらと光っているレジャーシートが床一面に敷かれていた。そして、またまたよく見ると目の前の人も少し濡れており妖艶にきらめいている。
「あぁ、奥のセットが気になるのか。ただ部活動の一環として撮影するのに使っていたセッティングだ。さほど気にすることもあるまい。名乗り忘れていたが、私の名前は二階堂流依だ。以後、よろしくな。」
突然どこからどう見てもいかがわし気なセッティングが現れ、返答に困り黙り込んでしまう。ありえない状況に思考回路も一時停止気味だ。
「…。」
「何か言いたげだが。」
「えっと、これが?」
「この芸術がわからんのか!お前も人並みの変態だな。」
「へ?」
「いや、違います。この方はむっつりスケベさんですから。大丈夫です。」
綾瀬さんが訳の分からない合いの手を入れながら会話に参入してくる。
(話がややこしくなるから、そっと見守っていてくれないかな。)
「まったくフォローになってない…。」
変な空気をひとまず入れ替えるためにも、僕は話題を変えることにした。
「初対面でこんな環境で話を進めるのもなんだし、ひとまず片付けようか。」
誰からの返事も聞こえないので周りを見渡すと、今までいたはずの二人の姿が忽然と消えていた。
「誰もいない…。」
おざなりになった道具をどんな活動が行われているのか定かではない部室で黙々と片付ける。いかにも新入生が任されそうな初めての部活動を先行きが不安になりながらも行いながら、僕は盛大にため息をついた。