決裂
一朗の父、瀧川家の現当主である瀧川 剛造が力尽くで家督を継いだことは他の三家族の間でも物議を醸した。
そんな剛造から家督を奪うことなく瀧川家を掌握してみせた一朗は四家族の中でも抜きん出た存在と言える。
そんな一朗が今、牙を剥いた。
「健二君。君が彩花ちゃんにしたことは全て分かっている。当然これを君の両親や賢一君に知らせることもできる。詳細な証拠つきでね」
「なっ、何のことで……」
「当然世間に公表することもできるんだよ? 彩花ちゃんは色情狂と陰口を叩かれ、君はそんな彩花ちゃんを凌辱するケダモノだとバレるわけだ。そうなると二人揃って藤崎家から勘当される。君、いや君らは藤崎家から追い出されても生きていけるのか? 二朗のように……一人でもまっすぐにな」
「そ、それぐらい……」
生きていける。少なくとも健二はそう思い込んでいる。地元を歩けば誰しもが頭を下げる。どこへ行っても人気者の健二だ。藤崎家から出たとしても生きる方法はいくらでもある。健二はそう思い込んでいる。
「彩花ちゃんはどう思う?」
「一朗さんがお怒りになるのも当然だと……思います……次郎には酷いことをしてしまいました……今だってお兄ちゃんのことで次郎には迷惑ばかりかけて……
だから……一朗さんの裁きに……お任せします……ごめんなさい……」
「彩花ちゃんはこう言ってるけど、健二君は? とことん反省して二朗にも謝るのであれば……矛を収めてもいいんだが?」
「じ、次郎なんかに……」
「そうか。なら話は終わりだ。ここから出て行け。お前の居場所はもうどこにもない」
「そんな馬鹿なぐぅあっ!」
一朗の蹴りが健二の左肩を捉えた。あえて肩を狙ったかのように見えた。倒れ込んだ健二を引き起こして、今度は顔を一発。一朗の拳がめり込んだ。
「がはっ、お、俺にこんなことして……ただで済むと……」
「言ったはずだ。この県から出ていけと。西はおすすめしない。二朗が育った家があるからね。東がいいだろう。今なら安全に出ていくこともできるだろうな」
「ふざけるな! たかが庭師ごときのことで! この俺が! どうして出ていかなければならない! いくらあんたが瀧川家の跡取りだからって無茶言い過ぎなんだよ!」
「そうか。それがお前の本意か。いいだろう。このまま家に帰って賢一君でもご両親でも言いつけるがいい。その時に後悔してももう遅いがな。分かったら行け」
「ちっ、調子に乗りやがって……帰るぞ彩花!」
「行かない! 私はもう帰らない! 次郎にも、一朗さんにもしっかり謝るから!」
「勝手にしろ! お前こそ後悔するなよ! 藤崎家を離れて生きていけるものか!」
健二は痛む頬をおさえ、ふらつきながら歩き去っていった。




