現れた男
声をかけてきたのは、一目で仕立てだと分かるスーツに身を包んだ青年。もちろん健二は知っている。
「一朗さん……」
「やあ健二君。珍しいところで会うね。こんな所で何をしてるんだい? おや、こちらは彩花ちゃんだね。少し見ない間に大きくなって。」
青年の正体は瀧川 一朗だった。北の藤崎家に対して南には瀧川家がある。藤崎家では健二の兄である長兄の賢一が跡取りとして有力視されているだけにとどまっているが、瀧川家では一朗がすでに当主として行動している。この差は大きい。
そして次男でしかない健二と、後継者である一朗とでは発言力にも格段の差があった。
「ど、どうもお久しぶりです……」
「助けてくださっあうっ」
叫びかけた彩花を殴る健二。
「おや? 何事かな?」
「……こんな所をうろつくような妹は……厳しく躾ける必要がありますからね……さあ、彩花。帰るぞ」
「い、いやっ! たすっうっ」
再び殴られた彩花。
「君も大変だね。そうか、あの小さかった彩花ちゃんが不良になってしまったのか。それはよくないね。」
「え、ええ……そうなんです……」
「ち、ちがっ」
三度殴ろうとした健二。しかしその手を止めたのは一朗だった。
「でも、いくら躾けだからって女の子を殴るのはよくないね。彩花ちゃん、何か言いたいことがあるのかな」
「そ、そうです! 助け「黙れ彩花ぁぁ!」
「黙るのは君だよ健二君。僕が聞いているんだから。さあ彩花ちゃん、話してごらん?」
彩花は健二の手を振りほどき、一朗の背後に駆け寄った。