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門前の攻防
「お、お兄ちゃん……」
「分かってる。もう何も言わなくていい。本当はお兄ちゃんが欲しかったんだろう? おいで彩花。さあ、一緒に入ろうな?」
そう言って彩花の手をとる健二。
「い、いやっ! や、やめ……」
「素直になるんだ彩花。本当はお兄ちゃんのことが好きなんだよな。分かってるさ。だから彩花だってあんなに、ね?」
彩花の顔色が一瞬にして蒼白となる。健二に意に沿わぬ性行為を強要されたはずなのに、それでも強い快感により嬌声をあげる自分……何度も、何度でも……
実の兄による地獄のような行為に体は感じてしまいながらも、心は屈辱に悲鳴をあげる。だから何もかも捨てて逃げ出してきたのに……
なぜここに、よりによってこんな場所に健二が……まさか美砂が? 次郎を、そして白浜組を藤崎家から守るために……健二に差し出した?
彩花の心が絶望で塗り潰される……健二に手を引かれ、ついに二人はルーベンスの門をくぐった。
その瞬間だった。
「やあ健二君。久しぶりだね。」
それは威厳と色気を兼ね備えた、落ち着いた声だった。