モーテル
そんな瀧川家であるが、今となっては一朗なしでは動かない。名目上はまだ跡取りでしかないが、実際はすでに当主としての責務を果たせるほどの能力と責任を兼ね備えている。
幼い頃の祖母との約束……『兄なら二朗を守れ』を忘れてしまうほどに遮二無二走り続けた結果なのだろうか。
そして一朗との約束の日、時は昼。美砂は彩花を車に乗せて移動していた。
「私が歩いてどうなるの?」
「さあ? 私もよく分からないねぇ。でもまっ、やるしかないさねぇ。なんせあの瀧川 一朗の指示なんだからさぁ。」
「美砂さん、一朗さんを知ってたんだ……じゃあ次郎が瀧川家ってのも本当なの?」
「さあねぇ。私から言えることは特にないねぇ。まあそのうち分かるんじゃないの? おっ、そろそろだ。あそこの前をうろうろ歩いてな。」
美砂が指差す建物はルーベンス。それはモーテル、いわゆるラブホテルだった。
一時までまだ15分はあるが、美砂は彩花を下ろすとどこかへ車を走らせてしまった。
不安そうな顔で建物の周囲を歩く彩花。
当然ながら彩花だってここが何をするための建物かぐらい知っている。入ったことがないため興味を惹かれるが、次郎と来るには少々遠い。ここならば声を我慢する必要もないのだろうか……などと考えていた矢先……
「やあ彩花。来てくれたんだね。待ってたよ。」
健二がそこにいた。