別離
応接間から出てきた百合子。その腕で二朗をしっかりと抱きかかえながら。
「おお、一朗か。聞いちょったな? そういうわけいや。一つ聞くでぇ? お前は二朗の兄か?」
そんなの当たり前に決まっている。だが、百合子の質問がそんな簡単な答えを望んでいるとは思えない。考え込む一朗。そしてすぐに答えは出た。
「うん! 俺は二朗の兄貴だよ! 何があっても!」
「そうかい。お前は兄貴かい。兄貴じゃったら二朗が困った時にぁ助けちゃれのぉ?」
「もちろんだよ! ばあちゃんこそ二朗を頼んだよ!」
「へっ、生意気な。そうじゃの、どんだけ強うなったか見ちゃろうのぉ。来いや。片手で相手しちゃるけぇ。」
百合子は右手で二朗を抱えているのだから。
「今日こそ勝つから!」
鞄を投げ捨てて百合子に体ごとぶつかる一朗。
しかし微動だにしない百合子。
「一朗……強くなったなぁ。お前はあんな両親みたいになるんじゃないでぇ……弱い者を切り捨てるような、人でなしにはのぉ……」
そう言って百合子は左手一本で一朗を持ち上げた後……抱き締めた。
「ばあちゃん……」
「じゃあの。私に勝てる自信がついたら訪ねて来いのぉ……」
いつになく優しい手つきで一朗を離した百合子。一朗には、それがまるで永遠の別れにも感じられるほど……残酷な優しさに思えた。
いつものようにぶん投げてくれた方がどれだけよかったか……