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激怒する百合子
一朗は百合子と相撲をとるのが大好きだった。
百合子は、一朗の母親である小百合とは似ても似つかぬ巨体で、若い頃は『女横綱』と呼ばれたことをいつも自慢していた。
その日も相撲をとれるであろうことを喜び、屋敷内に飛び込んだ。中学生になっても無邪気な一面を持つ一朗である。
すると……
「ふざけんな! てめぇらそれでも親か! 小百合! 私ぁお前をそんな薄情な人間に育てた覚えはないよ!」
百合子の声が漏れ聞こえてくる。応接間からだ。
「そうかい分かったよ! それなら二朗は私がもらっていく! てめぇらみたいな人でなしが親だったなんて二朗が可哀想だからなぁ!」
頑丈な扉の外にいても百合子の声は聞こえてくる。一朗の体に得体の知れない震えが襲ってきた。
「お前ら二度と二朗に関わるんじゃないよ! 小百合! お前は勘当だ! 二度とうちの敷居またぐんじゃない! 分かったなぁ!」
まだ中学生の一朗だが、会話の中身はしっかりと理解していた。
自分の大好きな二人が……二人と会えなくなってしまうであろうことを……