瀧川家と滝川次郎
彩花の返事は……
「帰らない!」
否だった。
「そうか。いいんだな? 次郎の職場がどんな目に遭っても……」
「じ、次郎は『瀧川家』の者よ!」
「はぁ? 何を言ってるんだい? あいつはうちで庭師をしていたこともある。だから身元は確認しているんだよ? あいつは『滝川』次郎じゃないか」
「なら調べてみればいいじゃない! 瀧川家の次期当主、瀧川一朗と次郎の関係を! 白浜組はその辺をきっちり調べていたわ! 吹けば飛ぶような弱小組にとっては思わぬ拾い物よ。それとも! 賢一兄さんに話を通して瀧川一朗に対抗してもらう?」
瀧川家の次期当主が一朗なら、藤崎家の次期当主は健二の兄、賢一である。一朗に対抗できるのは賢一だけだろう。だが、健二は……
「いいだろう……今日のところは大人しく帰るとするよ。だが彩花。お前が生きるべき場所はこんなゴミ溜めじゃない。もっと華やかな世界があるんだ。じゃあ、またな?」
健二はそう言って帰っていった。彩花の苦し紛れの虚言が意外にも効果をあげた。確かに美砂から瀧川家のことは聞いた。しかし、瀧川家と次郎の関係は聞かされていない。美砂だって知らない可能性だってある。
彩花は白浜組へ連絡すべく、黒い電話のダイヤルを回すのだった。