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彩花の朝
翌朝。彩花が目覚めた時、次郎はいなかった。すでに白浜組へ行ってしまったのだろう。
自分は次郎に何もしてあげていない。ご褒美に託けて、自分の欲望を満たそうとしたのも事実。だがもしかしたら次郎が喜んでくれるかもといった気持ちもあった。しかし、次郎は寝てしまった。
自分でも分かっている。次郎に向かって自分を抱けと言えば次郎はその通りにしてくれることを。ご褒美などという曖昧な言い方で逃げてしまった自分の弱さも……
「次郎の馬鹿……」
昼間、次郎のいない部屋。彩花は何もするでもなく怠惰に過ごしていた。
そこにノックの音が聴こえた。チャイムなどというものはない。来客は例外なくドアをノックするのが普通だった。
そんなノックに彩花は反応しない。
無視するだけのことだった。
だが……