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湯上がりの彩花
彩花が風呂からあがっても、次郎はまだ計算ドリルを解いていた。先ほどからずっと同じページを。
「次郎、それ正解よ。よくやったわ。」
それだけで途端に嬉しそうな顔を見せる次郎。藤崎家に居た時の自分には決して見せてくれなかった顔だと、彩花も気付けるようになっていた。
「いい、次郎。計算はね? 急いでやってはダメなの。常に正しいことを積み上げるつもりで一つずつじっくり取り組むのよ。」
正しいことを積み上げる、と言われても次郎にはよく分からない。ただ、ゆっくりやればいいということは伝わった。元々早いわけではなかったが、あえて速度を落とす次郎。それぐらいで正解率が上がるわけでもないが、心に少し、ほんの少しだけ……余裕が生まれた気がした。
「ここまで正解したらご褒美あげる。ゆっくり、がんばって。」