彩花の苦悩
次郎が計算ドリルを解き始めて一時間。彩花はその身体を持て余していた。
かつての次郎は命令すれば何でも言うことをきいた。舐めろと言えばどんなところでも舐め続け、動けと言えば体力が尽きるまで動き続ける存在だった。たぶん今でも……
だが、今の彩花にはそれができない。素直にお願いするという方法はあるにせよ、あの時の小学生……羽美と次郎の関係が気になって一歩が踏み出せなかった。あの小学生は次郎が頼めば何でも言うことを聞くと知っていたのだから……
それ以上に、次郎にした仕打ちの残酷さに……今さら遅いのだが、心を痛めて身動きが取れなくなっていた。自分がされたからこそ分かることでもあった……
だが、いつまでも逃げ続けていても解決しないことも分かっている。だからこそ何不自由ない生活を捨ててまでここにいるのだ。
いや、実の兄に身体を蹂躙される嫌悪感と、それでも強い快楽を感じてしまう屈辱に比べたら次郎と過ごす時間は天国と言ってもおかしくない。不自由などころか何の不安もなく、穏やかな時を過ごせるのだから。金や権力では手に入れることのできない価値があると言えた。
やがて彩花は……悶々とする体を引きずるようにして風呂へと動いていった。