表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  作者: 暮伊豆
8/156

歩き疲れて

座ったまま妙な姿勢で寝ていた次郎を揺り起こしたのは、髭面の偉丈夫だった。


「おめぇ何やってんだ?」


寝ぼけて頭の働かない次郎。


「こんなとこで寝てるってこたぁ行く当てがねぇんだろ? うちで働けや! のお?」


こくこくと頭を縦に振る次郎。


「ついて来いや!」


近くに止まっているワゴン車まで歩く二人。


「とりあえずこいつに着替えれや!」


男が用意したのは作業服と地下足袋だった。次郎にとって作業服は見慣れないものだったが、地下足袋は履き慣れたものだった。


「おめぇ高けぇとこは平気かぁ?」


頷く次郎。


「よっしゃ。こいつを腰に巻け。それからそこのロープを担いでこいや!」


言われるがままに装備を整えた次郎。そして幾束にも巻かれたロープを肩から担ぎ、男の後を歩く。

すると、男は線路内に立ち入ったではないか。とうとう昨夜は見ているだけで立ち入れなかった聖域に、堂々と。それだけで男は次郎にとっての憧れとも言っていい存在となった。もはや頭の中のどこにも兄と慕った健二のことは存在していなかった。


線路内を歩くこと半里。存外歩きにくい場所だったが、どこか誇らしい気持ちは止められなかった。

ついに到着。そこで見たものは線路脇に聳え立った崖だった。正確には崖ではなく法面なのだが、次郎にとっては崖にしか見えていない。


「ちぃと説明するで。おめぇがやるこたぁあの上からロープでぶら下がって金網(ラス)の上にアンカを撃つことじゃあ。あーの赤い印のとこにの。」


らす? あんか? もちろん次郎に理解できるはずがない。


「まあええ、隣の奴を見ながらやれや。ロープにぁこの『引っ掛け』を使えや。落ちんなよ?」


ひっかけ? 分からない言葉だらけで混乱している次郎。そこに追い討ちをかけるかのように……腰が重くなった。立っているだけでも精一杯なほどに。


腰に巻いた道具袋に金属製の杭のようなものを大量に入れられたのだ。さらには重そうなハンマーまで。男も同じような物を持っている。


「こっちから回るで。」


崖の横から上に登るらしい。平らな地面を歩くだけで精一杯の次郎だが、必死になって付いて行く。

たかだか二十メートル程度の斜面を登るだけで次郎は汗にまみれ動けなくなってしまった。しかし今腰を下ろしてしまうと二度と立てなくなる気がする。気力を振り絞り立ち続けていた。


しかし、次郎の試練はこれからだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
普段はこんなのを書いてます。
i00000
― 新着の感想 ―
[良い点] 捨てる神あれば拾う神あり。 理不尽に打ち捨てられた次郎が次なる人物に拾われていった先は…… ここで次郎は幸せになれるかどうか……なれないんだろうなぁ(。-`ω-)
[一言] ここまでではないですが、出来ない部下を持った時の事を思い出しました。 モデル級の美人な彼女がいたことがある。 何故かわからないがフラレた。 などと言ってました。 正直羨ましかった。 次郎を見…
[一言] 厳しくてもここで適応できれば、新しい道もあるか……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ