ひと心地
「ここの木が2本とも倒れやがったか。根からごっそりイってんな。夜中に大風でも吹いたか?」
頭が現場を確認している。何らかの理由で根元が弱ったのだろうか?
不幸中の幸いだったのは全員の命に別状がなかったことと、横に張ったワイヤーが無事だったことだ。おかげで何事もなかったかのように作業を再開することができる。だが、その前に他のロープの確認が先だ。
次郎とリンゾー以外の全員が確認したところ、問題はなさそうだった。やはり次郎だけが不運だったということだろう。
「おーし、昼にするでぇ。降りるかのぉ。」
頭の声がかかる。
「おお次郎、えかったのぉ。海ぃ落ちて上から木なんか降ってきてみぃ。やれんかったでぇ?」
「リンゾーとガンさんに感謝せぇよ? あそこで止めんかったら木も落ちてきちょったろぅのぉ」
「そしたら俺らもヤバかったわぁや! ガンさんよう知らせてくれたでのぉ!」
岩山を下る道中。次郎以外のみんなの話が弾んでいる。
「リンゾーもええ判断やったで。次郎は助けるしよ。しかもあの横っ飛び。かっこえかったわいや!」
「頭ぁー、マジぎりぎりやったけぇね」
「次郎もよう礼いうちょけのぉ。次からぁどの木にロープ取るかぁ気ぃつけえのぉ!」
一同は足取りも軽く山を降りていった、が……