原因究明
さて、今回の事故の原因は何だったのだろうか?
ロープの点検不足か?
いや、それはない。今回のような切り立った崖の上での作業の場合、太さ18mmのロープを使用し事前の点検も欠かさない。自分達の命を支えるロープなのだから当然だ。
では次郎の結び方が悪かったのか?
それもない。なぜなら木そのものが落ちてきたのだから。ロープは解けていない。
では次郎の木の選び方が悪かったのか?
半分はその通りだ。経験の浅い次郎が知ってるはずもないが、岩山に生えた木というものは意外と根の張り方が浅い。地中深く根を張ることができにくいのだ。そのため、台風などで根っこごと横倒しになることは珍しくない。
つまり、そこを考えてロープを取る木を選ぶことを教えてなかった同僚達のミスである。
だが、経験の長い彼らでも後ろにとった2本目の木すら倒れてくるのは初めてだった。木の生育具合からしてあり得ないレベルの不運さと言えるだろう。
通常はいくら岩山でも人間の体重ぐらいで木が倒れることなどまずないのだから。
後始末や作業の再開が面倒ではあるが全員無事で、いや、リンゾーの手の平以外は無傷で済んで一堂はほっとしていた。
おそらく、最も肝を冷やしたのは頭だったのだろう。