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リンゾーの機転
「次郎ぉ! 『引っ掛け』外せぇ! 網ぃ掴めぇ!」
ロープを切りながらリンゾーが叫ぶ。引っ掛けとは正式名称を『ロリップ』と言う。腰袋、すなわち安全帯とロープを繋ぐ重要な器具である。リンゾーはそれを外して、自分の手で金網に掴まれと言っているのだ。
だが、突然の落下で宙にぶら下がっている次郎には届かない。あたふたと手足をばたつかせるのみだ。
いち早く離れた2人は下からロープを巻き上げている。一度巻き上げてから次郎のところに投げるつもりなのだ。
刻一刻と落ちつつある倒木。あれが直撃するぐらいなら手を離して次郎を海に落とした方がまだ助かる可能性はある。だが、落ちるまでに何度崖に叩きつけられるか分かったものではない。そこに……
「よし切れたぁ! ガンさんええでぇ! 次郎ごと横に行ってやぁ!」
「おっしゃあ!」
リンゾーが切っていた位置は下の男よりも上、木よりも下だ。この位置を切っておかないと木と一緒に次郎が落ちてしまうからだ。
そして上の束縛から自由になった下の男は、力に任せて宙吊りのまま次郎を無理矢理崖の端の方まで動かした。後は……