次郎は歩く
線路沿いを歩き続ける次郎。先ほどまでは頼りない足取りだったはずが、いつしかしっかりと歩みを進めていた。
やがて列車も通らなくなり、周囲は真っ暗だ。ふとフェンスを越えて線路を歩きたくなった次郎だったが、どこまでも続く線路がなぜが神聖なものに見えてしまい断念した。しかし、その先に何があるのか気になることに変わりはない。歩みを止めることはなかった。
線路沿いの道と言っても、いつまでも並行しているわけではない。時には通れなかったり、時には行き止まりだったり。それでも次郎は線路を見失わないよう歩き続けた。おそらく、これまでの人生でここまで夢中になったことはないはずだ。きっと自分でもここまで線路に夢中になるなどと、思ってもみなかったことだろう。
線路はすっかり街からは外れ山間部へと差し掛かった。そうなるともう線路沿いの道などというものはなくなる。二本のレールの間を歩いてみたいという欲望に襲われる次郎。彩花の裸体を目の前にしてもそのような欲望には襲われなかったのに。
ふらふらと線路に近寄るも、近寄るほどにレールが神聖なものに見えて仕方ない。同じ間隔を保ち、どこまでもどこまでも延びていく二本のレール。
結局次郎はそのまま何もせず、レールを見つめたまま朝まで立ち尽くしていた。
朝日が昇る前、始発が走り出す。
目の前を通り過ぎる列車を見てようやく我に帰った次郎。現実を思い出し、線路脇に座り込むのだった。