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彩花の本心
次郎の思考が動き出したのは二十分後ぐらいだった。周囲には誰もおらず、倉庫前に彩花と二人きり。
思考は動き出しても体は動かない。あう……あっ……と声にならない声を発するのみである。
「次郎?」
問いかけられるも、次郎はどう返事をしていいのかさっぱり分からない。許すも許さないも、次郎には難しすぎて分からないのだ。
「分かってる……謝ったぐらいで許せるはず……ないよね……」
彩花にしては殊勝な言葉であろうか。
「次郎をさんざん弄んで……罪人のように追い出して……本当にごめんなさい……今さら遅いとは思うけど、お兄ちゃんに手紙を書くわ……あの時のことは次郎は何も悪くないって。悪いのは私……そして藤崎の家にはもう、戻らないって……」
ますます次郎には理解が及ばない話になってしまった。
「だからお願い! 私を、次郎のところに置いて! 私……次郎と一緒に……」
話は理解できなくても、お願いされると聞いてしまうのが次郎である。
「だめぇー!」
その声が聞こえたのは次郎が首を縦に振りかけた時だった。声の主はもちろん羽美である。そこらでじっと様子を窺っていたのだろうか。