彩花と羽美
初対面の子供に敵意の視線を向けられて一瞬怯んだ彩花。だが、身に覚えなどないため堂々と返事をする。
「私は藤崎 彩花。次郎の、次郎の……」
堂々と返事をするつもりだったのだが、胸を張って言えない言葉があった。自分は一体次郎の何なのだ? 奴隷としか思ってなかった次郎は自分のことをどう思っているのだ? 自分は次郎の主なのか? そんなはずがない。給料を払っているわけでもなく、肉の快楽によって支配しているわけでもない。彩花は二の句が継げなかった。
「ふぅん、そう。私は白浜 羽美。お姉ちゃんいい匂いだね。ほら、あんたも自己紹介しなさいよ。」
「白浜……海です……」
海は偉丈夫たる父親に似ず、体と気が小さな男の子である。今のところは。
「もう三十分もすれば次郎も帰ってくるだろうよ。風呂でも入って待ってな!」
「う、うん……」
湯船に体を沈める。自分は一体何がしたいのだろうか。藤崎家に帰ればいいのに。次兄である健二が待っているが、何不自由なく暮らすことができるのに……
意に沿わぬ性行為を強要されることがどれほど辛いか……今になって理解できてしまった。汗に塗れて働く生活をしてでも、あの家に帰りたくないと思うほどに……
そして、自分が、自分達が次郎にどんな酷いことをしたのか……今さらながら実感しているのだった。疲れたとも、やめてとも言わない次郎である。それをいいことに何度も何度も、自分の快楽のために次郎をいいように使ってしまった。
今になって次郎に……謝りたい気持ちでいっぱいだった……