劣情
店から追い出された次郎。飲み代を支払わずに済んだことは果たして幸運だったのか。ふらふらと路頭を彷徨っている。
足元も、思考も定まらないまま歩き続けた次郎。いつしか繁華街を抜け、線路沿いに差しかかった。時折、横を通過する列車の光が眩しくて顔をしかめる。
この道の先に何があるのか。ふと気になった次郎。何度か列車に乗ったことはある。しかし、スタートやゴールがどこにあるのか考えたこともなかった。いや、そもそも存在するのか。次郎の思考は線路を追うことで埋まってしまった。
一方、藤崎家では。
「彩花、大丈夫か? もう怖くないからな。」
「お兄ちゃん……次郎はどうなるの……」
「さあな。だがこの街に来ることは二度とないだろうさ。安心するといい。」
「うん……」
「心配するな。今日のことは親父には黙っておくから。風呂でも入って休むといい。」
「うん。お兄ちゃんありがとう……」
健二が彩花に事情を尋ねることはない。健二の中では一目瞭然だからだ。自分の可愛い妹が次郎ごとき使用人に懸想したなどと欠片も考えてはいない。あくまで純真無垢な妹を次郎が言葉巧みに自室に連れ込んで無理矢理コトに及んだ。そのようにしか考えていない。
むしろ、つい先程ちらりと見えた彩花の裸体。小さい頃、一緒に風呂に入った時とは比べ物にならない程に成長していた。そこらの女とは比べ物にならない程の神秘性を感じてしまい、身の奥に滾るものを感じずにはいられなかった。
次郎を追い出した事情説明、部屋の後始末、次の庭師の求人。そのような些事はどうでもいい。健二は車を呼び、街へと繰り出していった。