美砂と彩花
「ふぅん? なるほどね。実の兄にねぇ。そりゃ辛かったわね。」
「う、うん……」
「で? その程度の傷でいつまでガタガタ言う気なんだい?」
実の兄に性的虐待を受けたことを告白した彩花。その痛みを美砂に分かってもらえたと思った矢先の一言だった。
「えっ……だって……」
「次郎の傷を考えたことぁないんかぁ!」
あるはずがない。庭師をしていた頃の次郎を、奴隷としか見ていなかった彩花である。自分の言いなりになる都合のいい奴隷としか。
「あんた知ってんだろお! 次郎が! 頼まれたら! 何でも言うこと聞く性格だって! だからこっちもあんたらが次郎にした仕打ちぁ全部知ってんだよぉ! あいつぁ隠し事ができないからねぇ!」
「だ、だって……次郎は……私のことが好きで……だから、私、次郎に、なら……」
「ふざけんじゃないよ! いつまで大昔の話ぃしてんだい! それよりも! あんたぁこれからどうやって生きてくんだい!? なんなら藤崎家まで連れてってやろうか、あぁ?」
「そんな……やめて、それだけは……」
「ふぅん? 次郎はどんな頼みでも『やめて』って言わないだろうにねぇ。だろう?」
「た、たぶん……」
「藤崎家には帰りたくない? そこまでして次郎と一緒に居たいってのかい!? 大人しく帰りゃあ何不自由ない生活が待ってるってのに! そこまで次郎に惚れ込んでるたぁ思えないがねぇ? 男なら誰でもいいんだろぉが!」
「だって……次郎は……嘘をつかないから……」