白浜 美砂
次郎達が現場に向かった頃、頭の妻である白浜美砂は次郎のアパートへと向かった。
駐車場に車を停めるなり、つかつかと次郎の部屋へと足を進め、その勢いのままにドアを開けた。当然鍵などかかっていないことは先刻承知である。
部屋には平和な顔をして寝ている彩花がいた。
「起きんかいボケぇ!!」
美砂はテーブルに拳を叩きつけ、鋭く叫んだ。
「なっ、何よあんた! ここは次郎の部屋よ!」
さすがの彩花も目を覚ましたようだ。
「あんたなぁ、今日次郎がどんな現場へ行ったか知っとんのか? 次郎がどんな危険な仕事やっとるか知っとんのか? おお?」
「べ、別に私に関係ないし!」
「ほぉう? 関係ないんか? そんだら出ていけや! ここぁ次郎の部屋なんよ! 無駄飯食いは出ていけぁ!」
彩花の髪をひっ掴み、立ち上がらせた美砂。
「あんたらがなぁ、次郎にやった仕打ちぁ全部聞いとんのじゃ! おどれらそれでも人間か!? 次郎をええよぉに弄んでおいて! ちょっと都合が悪くなりゃあ追い出して! たいがいにせぇよ!」
とうとう彩花は玄関先にまで引きずられていった。
「どうしたんなぁ! 何とか言わんかい!」
美砂の迫力に何も言えなくなった彩花だが……
「だ、だって私……もうここしか……行く所が……」
「甘ったれてんじゃねぇ! 行き場所がないなら作るんだよ! 次郎が藤崎家を追ん出されてからどうやって生きてきたと思ってんだい!」
「次郎……」
「おらぁ! これからも次郎に迷惑かけ続けるってんなら容赦ぁしないよ! 叩き出して藤崎家に送り返してやろうか!?」
「や、やめてそれだけは!」
「ふーん? だったら! きちっと起きて! ちっとは真人間になってみんかい!」
「なる……なるから!」
「ふぅん? そんなら話ぐらいは聞いてやるかねぇ。」
ようやく美砂は彩花の髪から手を離した。