次郎の大ハンマー
次郎は言われた通りにロープを取った。巻き結びやクラブヒッチとも呼ばれる結び方、ここでは亀結びと呼ばれる方法できっちりとロープを木に括り付けた。
次郎が数十本のロープを取り終える頃、他の従業員の荷運びもひと段落ついた。明日、クレーン車を使った作業をするということだったが、それまでに本日は何を終わらせておくのだろうか。
それは杭打ちだった。いつものアンカと呼ばれる鉄杭とは一回り以上も違うもの。長さ150cm、直径3cmの鉄杭を5kgの大ハンマーを使い地中に打ち込むのだ。一ヶ所あたり四本、つまり四つの穴が空いた鉄枠ごと打ち込み地面に固定するのだ。ここでは組立アンカーなどと呼ばれている。
それを十ヶ所に。山の上に八ヶ所、山の両翼に二ヶ所だ。
もちろん大ハンマーは重い。次郎などは十振りもすればすぐにバテてしまう。バテたら交代だ。人数は五人なのでそれなりに休めるペースだ。
「まあボチボチやれや」
「そねぇガンガンやりんないや」
「のんびりやろうで」
他の従業員は次郎にそう声をかける。よたよたと座り込む次郎。次に順番が回ってくるまでは休憩だ。ここには誰かが仕事をしているのだから立って待つなどという考えはない。煙草を吸いながら、缶コーヒーを飲みながら待つ同僚だっているのだ。
こうして昼までに六ヶ所のアンカー打ちが終わった。次郎は手首がかなり痛かった。