次郎、仕事始め
翌日、いつも通り白浜組に出勤する次郎。
「おう、ばあちゃんは元気やったかぁ?」
新年の挨拶もそこそこに頭が声をかけてきた。入院していたが元気そうだった旨を伝える次郎。
「おお、そりゃいけんかったのぉ。まあ今年もがんばれや!」
そしていつも通りの現場が始まる。
高所、吹きさらしの崖。冷たい風が容赦なく体温を奪う。それでも次郎達は手を止めない。崖を覆う金網に向かって鉄の杭、通称アンカをひたすら打ち続けている。
次郎の服装はそこまで厚くない。普通の作業着の上にヤッケを上下、着ているぐらいだ。厚着をすると体が動かしにくいためだ。雨の日でも仕事はあるため合羽も支給されているので、普段から合羽を防寒着として着用している者もいる。
風はますます強くなる。しかし、この仕事にはあまり関係ない。どんなに寒くとも、例え雪が降ろうとも中断することなどない。
次郎は、この仕事が好きだった。白浜組の仕事にはいくつか種類があるが、その中でも金網にアンカを打つこの仕事が。
ベルトコンベアーに土を投入する仕事と違って完全に自分のペースで行うことができるからだ。意図的にサボることのない次郎だが、今でも他の者より仕事は遅い。すると誰もが次郎の分までやってくれる。そこに甘えの気持ちがないとは言い切れない。
それを含めて好きなのだ。
だが、この仕事が終われば次は次郎の苦手な土入れ。つまり、ようやく次郎にも仕事の流れが分かってきたのだ。
白浜組が主に請け負うのは『法面緑化工事』
道路工事などに付随して山を切れば、必然的に両側に法面ができる。そこが崩れないように防護する工事なのだ。